第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ムギにとってボニーとは、一番の親友であり、高校に入ってから最初にできた友達でもある。
無類のパン好きゆえに、人目も憚らず教室でパンを貪っていたムギに、お裾分け目当てで近づいてきたのがボニーだ。
今でこそ友達が多いムギだが、始めのうちは独特な嗜好が敬遠されていて、あからさまに引く人も多かった。
だからといって自分を変えようとは思っていなかったムギにとって、ボニーの存在はありがたかったし、大きかった。
ボニーもムギの裏表ない性格を好きでいてくれて、それはずっと変わらないものだと信じていたが……。
あんまり好きじゃない。
嫌いと言われたわけではないのに、その言葉はひどくムギの胸を抉った。
狼狽するあまり、飲み込んだパンが喉に引っ掛かりそうになる。
「げほ、ごほ……ッ」
「おいおい、大丈夫かよ。」
慌ててお茶を飲んだムギの背中を優しく叩くボニーは、ムギが知るいつもの彼女。
わけがわからなくなって、まん丸な瞳を瞬かせる。
「好きじゃないって、なんで?」
率直に理由を尋ねると、ボニーはムギから視線を逸らし、赤いリップで彩られた唇をへの字に曲げた。
「なんでって、さっき言ったとおりだよ。私はムギの素直で真っすぐなところが好きなんだ。」
「それだけじゃわかんないよ。」
素直じゃなくて、真っすぐじゃないと言うのなら、悪いところがあるのなら、はっきりと伝えてほしい。
しかし、普段は優しい親友は、肝心なところで手厳しい。
「私が言ってもしょうがねぇだろ。自分でわかんなきゃ意味がないんだ。もっとしっかり……、考えろよ。」
考えてもわからないから聞いているのに、と言おうとしたところで、屋上の扉が開いた。
「あー、疲れた! ったく、あの先生、私が可愛いからって用事押しつけすぎ! もう、お腹すいちゃったじゃない!」
日直の仕事を終えたプリンが不機嫌に現れ、ずかずかとムギとボニーの前に腰を下ろした。
「なによ、あんたたち。薄情ね、食べるの待っていてくれてもいいじゃない。」
さっさとお弁当を広げてしまった二人を睨んだプリンは、三つ目悪鬼様だ。
悪鬼様降臨のおかげで、微妙に険悪だった空気は微量のわだかまりを残して消えていく。