第7章 トラ男とパン女の攻防戦
週末の金曜日。
今朝もローはバラティエにやってきて、ムギにお勧めのパンを尋ね、異物を飲み込むように食べている。
すでに数日続いている光景はバラティエ内で密かに広まっていて、売り場に出るたびにサンジが奇妙な目で眺めている。
今さらというか、なんというか、ローは目立つ男だ。
バラティエの仲間たちはもちろん、常連客にも顔を覚えられている。
そうなると、中にはロー目当てで店を訪れる客もいるわけで。
「いらっしゃいませー!」
挨拶と共に顔を店の入り口へと向けたら、そこには昨夜見かけた女子高生が立っていた。
あの時間帯に商店街を歩いていたのだから、住まいはこのあたりなのだろう。
しかし、彼女はパンよりも先にイートインコーナーへと顔を向け、とある男を目に留める。
それから僅かに頬を赤らめ、いそいそとトレイを持ってパンを選び始めた。
もしや、とよぎった予感は正しく、レジで会計を済ませた彼女は可愛らしい声でこう尋ねてきた。
「あの……、あそこのスペースで食べていってもいいんですか?」
その問いのおかげで彼女の目的が確定したわけだけど、だからといってどうこうできず、ムギは店員として笑顔を浮かべながら答える。
「はい、どうぞご自由にお使いください。」
「ありがとうございます。」
ムギよりも遥かに女子力が高い彼女はコーヒーも一緒に注文をして、イートインコーナーへ……ローの隣のテーブルへと腰を下ろした。
ケータイを弄りながらパンを食べ、コーヒーを啜り、時折ローをちらちら見ている。
視線に敏感なローはきっとすぐに気がついただろうが、そんな視線は日常茶飯事なのか、これといって反応を見せない。
どちらにしても、ムギには関係がないことだ。
そう、関係がない。
そのはずなのに、妙に彼らが気になってしかたがない。
「おい、ムギ! ボサッとすんな、パンが詰まってんぞ!」
「はい! すみません!」
焼きたてのパンが乗った天板がカウンターの上に次々と並び、ムギの手が遅いばかりにゼフ自ら品出しをする。
職人頭に品出しをさせるなんて、なんたる失態。
慌ててパンを並べるけれど、その間にも女子高生の視線が気になり続けていた。