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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第7章 トラ男とパン女の攻防戦




徒歩20分の距離は、ひとりで歩くとそれなりに遠い。

バイトを始めて約七ヶ月、とっくに慣れた道のりを苦だとは思わないけれど、ローと一緒に歩く帰路はひとりで歩くそれと同じに思えない。

一時期は、一緒にいる時間がひどく長くて苦痛だと思ったはずが、今では正反対の感想を抱いていた。
同じ距離、同じ時間だというのに、自分が住むマンションを目前にして、あっという間にすぎた時間に驚いている。

そしてムギは、自分の心境の変化に気がつきたくなかった。

「えっと、送ってくれてありがとうございました。」

「いちいち礼を言わなくていい。俺が勝手に好きでやっていることだ。」

本当に、まさにそのとおりなのだけど。
それでも礼を言ったのは、この時間を苦と思うどころか楽しんでしまった自分がいたから。
だが、これ以上口を開くとそれが彼に伝わってしまいそうで、ムギは唇を引き結んで噤んだ。

迎えに来なくていい、送らなくていいと言っても、ローは聞く耳を持たないだろう。
その代わり、これから徒歩で帰る苦労を考えて、こんな提案をしてみた。

「あの、バイクで来たらどうですか?」

「は?」

「あ、いや、別にわたしがバイクに乗りたいとかじゃなくて、ここから歩いて帰るのも面倒でしょう?」

これからマンションに入ってぬくぬく暖まるムギとは違って、すっかり冷たくなった夜風に吹かれながら彼は帰るのだ。

好んで夜道を歩く人などいないと思って提案をしたつもりだが、なぜか呆れた顔をされた。

「バカか、お前。バイクで来たら、話す時間が減るだろうが。」

「え……。」

それはつまり、ローがムギと歩く時間を楽しみにしているということで。
好きな女がいる男の心情としては当然の主張だけど、恋に臆病な女からしてみたら、そこまでの想像が働かない。

不意打ちとも言えるセリフに心臓がぎゅうっと痛み、眉間に皺を寄せた。
たぶんこの顔は、ローの目には不満そうな表情に見えただろう。



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