第7章 トラ男とパン女の攻防戦
「……男の人と付き合う決め手って、なんでしょう?」
気がつけば、そんな質問をしていた。
口にした瞬間、「なにを聞いてるんだ!?」とびっくりしたけれど、レイジュは気にせず答えてくれる。
「そうね……、性格とか金銭面とか、人によっていろいろあるでしょうけど、一番は一緒にいて楽しいかどうかかな?」
「でもレイジュさんは、デートは楽しくても付き合わないんですよね?」
雑談にしては真剣味のあるムギの様子に、レイジュは「あら?」と顔を上げ、意味ありげな笑みを浮かべた。
「ムギちゃん、もしかして好きな人でもできた?」
「ち、違います!」
「ふーん……?」
疑わしい視線で見つめられ、無意味に冷や汗を流したムギは、いそいそと洗浄済みトングを運んでみた。
わかりやすく話題を逸らしたムギに、レジのカウンターで顎肘をついたレイジュが追撃を掛ける。
「あのね、恋かどうかを知りたいのなら、その人の隣に自分じゃない誰かの姿を思い浮かべてみるといいわ。」
うっかりトングを一本床に落としてしまい、ガシャンと音を立てる。
今日はよく物を落とす日だ。
「……ちょっと、洗ってきます。」
「楽しみだわ。彼氏ができたら紹介してね?」
「だから、違います……!」
「はいはい、そういうことにしておくわね。」
話がまったく通じない。
完全に藪蛇な質問をしてしまった自分を迂闊に思いつつトングを洗って帰ってきたら、大人なレイジュはもうその話題に触れなかった。
目をハートにした男性客の会計を済ませると、「そうそう」とカレンダーを見ながらムギに話し掛ける。
「今度の土曜日、予定が空いたから仕事に入れそうなの。よかったらムギちゃん、お休みにしない? たまには土日に連休取りたいでしょ?」
「あー……。」
休みの日、ムギがすることといえば、スーパーのチラシと睨めっこして特売品に目を光らせたり、通帳を眺めながらうっとりしたり、趣味を満喫する程度だ。
要は暇なわけで、気を遣って連休にしてもらう必要はない。
ないのだが……。
(来週のテスト、さすがに勉強しないとなぁ……。)
鞄の中に封印した答案用紙を思い出し、どこか遠くを見つめてしまう。
勉強漬けを果たして満喫と呼ぶかどうかはさておき、厚意に甘えることにした。