第7章 トラ男とパン女の攻防戦
見習いとは言えギンが厨房にいるために、今日はちょくちょく売り場に出てきたレイジュがムギの仕事を手伝ってくれた。
やはり美しい女性が売り場にいると華やかさが違う。
普段より三割ほど多い男性客が明らかにパンではなくレイジュ目当てで入店しているであろう現実に、落胆を通り越して感心する。
「なぁに、ムギちゃん。じっと見つめられると照れるわ。」
「いやぁ、レイジュさんは美しいな~と思って。」
レイジュは美しい。
ムギの周囲にはボニーやプリンなどの可愛い友人が多くいるけれど、大人の魅力を持ったレイジュほど美しい知り合いは彼女以上にいない。
「ふふ、褒めたってなんにも出ないわよ?」
謙遜をしないあたり、日頃から言われ慣れている証拠なのだろう。
「……レイジュさんって、彼氏いるんですか?」
ドリンクの補充をしながら何気なく尋ねてみると、意外にもレイジュは首を横に振った。
「ううん、いないわ。」
「そうなんですか? 絶対男の人は放っておかないですよね。」
「まあ、デートくらいはするけどね。付き合うほど興味を引かれる人がなかなかいないの。」
そういうものなのか……と、ぼんやり考える。
ローと二人で遊んだ時間をデートと呼ぶのなら、楽しかったな、と思い返す。
彼以外の男性と二人で遊んだ経験がないから比べられないが、ローのエスコートは完璧だった。
デートプランにしても、店選びにしても、どれもムギが楽しいと思うものばかり。
まあ、プリクラという若干のアクシデントはあったけれど。
また一緒に遊んでみたいかと問われれば、遊んでみたいとは思う。
けれど、付き合いたくはない。
その考えはレイジュと同じようで、まったく違うような気がしていた。
付き合うほど興味を引かれない、というわけじゃない。
ローがムギを知るほどムギはローを知らず、それを寂しいと感じている自分がいた。
それは、彼に興味があると言っているようなものだ。