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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第7章 トラ男とパン女の攻防戦




ムギには、嫌いな食べ物があまりない。
だから、嫌いな食べ物を克服する難しさがよくわからないけれど、これまでの人生で避け続けてきたものを好きになるのは、きっと想像以上に難しいはずだ。

『お前が好きだ』

目を瞑ればローの言葉が、温もりが蘇ってきて、さすがのムギも眠れぬ夜を過ごし、うっすら薄い隈を作った早朝、バラティエへと出勤した。

もしもムギが人並みにメイクを嗜む女だったら、このくらいの隈くらいファンデーションでささっと隠せただろう。
普段からアイブロウ程度しかメイクをしないムギに、急ごしらえでメイク道具は集められず、色が変わった目もとをそのままに出勤すれば、仲間たちに「寝不足か?」と尋ねられる。

夜中まで勉強していたと真っ赤な嘘で誤魔化し仕事に勤しんでいたら、いつもの時間きっかりにローが現れた。

(う……。)

気まずさを覚えたムギは今日もレジをギンに任せようかと思ってしまう。
しかし、そんなムギの考えを見透かしたように、ローがこちらにやってきた。

「いら、いらっしゃいませ!」

とりあえず店員らしく挨拶をしてみたけれど、いったいなんの用だろう。
コーヒーならレジへ、どうぞレジへ行ってください。

「今日のお勧めは?」

「え?」

「毎日なんか決めてんだろ。いつも下手くそな紹介をしてんじゃねェか。今日のパンはなんだ。」

「厚焼き卵サンドですけど……。」

というか、下手くそな紹介とはなんだ。
一生懸命考え抜いた口上を聞かれていたのにも驚いたけれど、おもむろに卵サンドへ手を伸ばしたローにはもっと驚いた。

「え、買うんですか?」

「ああ。」

「なんでまた……。」

「愚問だろ。」

そう、まさしく愚問だ。
ムギは昨日、ローに「パンが食べられない人とは付き合えない」と伝え、彼は「その言葉を忘れるな」と念押しした。

つまりは、そういうこと。
背筋に嫌な汗がつぅっと流れ、表情が固まる。

石化したムギに向かって、ローはレジをするよう顎でしゃくる。

もはやギンに任せる選択肢を失い、ムギは観念してレジに向かった。



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