第7章 トラ男とパン女の攻防戦
どれだけ好意を告げられても、ムギには自分の魅力がわからない。
でもたぶん、それは目の前にいるローだって同じなんじゃないか思った。
料理が下手で、馬鹿で、奇妙な趣味があって、パンが好き。
それらは全部、ローにとってプラスにならないムギの短所。
それでもローの瞳は確実に熱を灯していて、ムギのことを好きだと語っている。
動揺した。
これまでは、いくら「好きだ」と言われても「嘘だ」としか思わなかったのに、迫りくるローの眼差しが、表情が、鈍いムギの恋愛脳を叩き起こす。
疑えない、疑う余地がない。
ならばどうすればいいのか、どう答えればいいのか、今になって言葉を見つけられずにいた。
本気で突き放せ、とローは言った。
本気とは、なんだろう。
アブサロムに触れられそうになった時、ムギは本気で嫌だった。
その手に、視線に触られたくなくて、それまで気を遣い、優しくしていたはずの彼を殴った。
我慢の限界だったのだ。
一方で、ローはどうだろう。
彼だって、アブサロムと同じことをしている。
むしろ自覚がある分、ローの方が悪質だ。
でも、ムギはローに対し、嫌悪感を抱いていない。
押し倒され、肌に触られ、キスをされてもなお、恐怖や嫌悪を感じなくて。
なら、ローとアブサロムの違いはなにか。
(ああ、ダメ。ダメ……。)
それ以上は、本当にダメだ。
考えたら最後、囚われてしまう。
そう思ったムギは、咄嗟の行動に出る。
「パンが食べられない人と付き合うとか、無理です!!」
意味不明な断り文句を口にして、眼前に迫るローの額に己の額を打ちつけ……つまり、頭突きをした。
「「――ッ!」」
両者どちらとも知れない声なき悲鳴が上がり、身体を離して悶絶した。
本気の頭突きは、脳をも揺らす効果がある。