第7章 トラ男とパン女の攻防戦
実はというと、ムギはローの告白を疑っていた。
彼はムギを好きだと言うけれど、やっぱりムギには自分のどこに好きになってもらえる要素があるのかわからなくて、今でも冗談ではないかと思っている。
そんな心を見透かしたのか、ローは自分の想いを行動で表す。
信じないのなら、信じさせるまで……と。
「ちょっと……。動けないんですけど……。」
「動けなくしてんだよ。」
ローの瞳は、獲物を狩る猛獣の瞳と化している。
哀れな獲物役が自分だと思いたくなくて、ムギは彼から目線を逸らした。
「悪ふざけはやめてください。」
「悪ふざけ? やっぱりお前、わかってねェな。」
顎を掴まれ、逸らした視線を無理やり合わせ、鋭い眼差しがムギを射抜いた。
強く、熱く、少し怒ったようなその瞳を見たのは、これが初めてじゃない。
これまでにも何度も……、そう、何度も向けられてきた視線。
その意味を理解できなかったのは、ムギが恋愛から目を背けていたからで、恐らくきっかけはあったはず。
「……離してください。」
「断る。」
ローの顔が迫ってくる。
昨夜のキスを思い出したムギは咄嗟に目を瞑ったが、近づいてきた唇は予想に反して頬を掠めただけ。
恐々と薄目を開けたら、意地悪そうにローの口角が上がった。
「なんだ、期待外れだったか?」
「そんなわけな――んんッ」
意識した自分が恥ずかしくなって否定しようとしたら、今度こそ唇を塞がれた。
掴まれたままの顎はぴくりとも動かず、ローのキスを受け入れるしかない。
人生三度目のキスだというのに、ローには容赦がなかった。
我が物顔で侵入してきた舌はムギの口内を好き勝手に弄って、縮こまったムギの舌を器用に擽る。
「ん、く……ッ」
ローの舌が口腔を暴れ回ると、ぞわぞわ奇妙な感覚が広がり、ムギにはそれが怖かった。
退けようとローの肩を押したが、彼の身体は岩のように動かずに、徐々に体重を掛けてくる。
重圧に負けたムギの身体は自然とソファーに寝そべって、ローに押し倒される体勢になる。
「むぐ、ん…うぅ……!」
抗議をしてみたところで、塞がれてしまった口からはくぐもった声しか漏れず、ローの火種をいっそう煽るだけだった。