第7章 トラ男とパン女の攻防戦
おかしいぞ、自分のペースで話を進めるために家へ招いたのに、なぜこんな展開になってしまったのか。
迫るローに焦りを覚えながら、ムギは必死で話を元に戻そうと努めた。
「あの、話が逸れちゃいましたけど、わたしは前みたいな友達に戻りたくて……。」
「友達? お前を友達だなんて思ったことは一度もねェよ。」
「え、ひど。」
付き合うフリをする前も、ムギたちはそれなりに仲良くやってきたと思う。
でもそう考えていたのはムギだけで、ローは友達とすら思っていなかったのだとしたら、悲しすぎる本音だ。
「おい、また勘違いしてんだろ。お前が好きだと言ったのを忘れたのか?」
「あー、忘れてませんけど、でも……。」
「いや、忘れてただろ。お前の言葉は一切信用しねェ。いい加減、俺も学習したからな。くだらねェ駆け引きなんざ、お前には通用しない……そうだろ?」
そうだろ?と言われても、いつ何時駆け引きをされたのか記憶にないムギには、否定も肯定もできない。
例えば、ローがムギの反応を見ながらあえて過度な接触をしてきたことなど、ムギは気づいておらず、その時点でローの考えが正しいという意味になるのだろう。
「お前には好きな男がいない、俺はお前が好きだ。なら、付き合っていても問題はねェはずだ。」
「ありますよ! だって、わたしは別に、ローを好きじゃ……。」
好きじゃないと言えなかったのは、ローを傷つけると思ってしまったからか、それとも、自分の中の変化が邪魔をしたからか。
「関係ねェよ。付き合ってりゃ、そのうち好きになるだろ。」
「だから、どこからそんな自信が……。あの、ちょっと、近いんですけど。」
さっきからローが距離を詰めてきて、そのたびに後ずさってはいるけれど、ついにはソファーの端にまで追いやられた。
あとはもうソファーから立ち上がるしかないが、肘掛けに片手をついたローがそれを阻み、ムギの動きを制している。
「わざと近づいてんだよ。」
「なんで?」
うっかり理由を尋ねてしまって、死ぬほど後悔をした。
「好きだと言ってもわからねェやつには、身体で覚えさせるしかないだろ?」