第5章 契約と思惑
睡眠不足のせいか授業中意識が朦朧とすることがたたある。ふらつく体を休めるために手摺に寄りかかり呟く。
真面目に先生から指示された罰を意地でもこなすこの無駄な努力を、誰か褒めてほしいものだ。
「ん?フェンとガイがいる」
手摺に体を預けながら、寮の前にいる2人を眺める。
「……!」
「……?」
2人は何か言い合っているようだ。というよりも、フェンが一方的にガイに絡んでいるようだ。
それをしばらく見ていると、何か強く言い捨てたガイが去って行く。その姿をフェンは熱い眼差しで見送っている。
それはまるで、好きな人に告白したが思い叶わずふられた女子のように見えて、なんとも言えず表情が固まった。
「……」
いつものようにガイを揶揄った後、フェンは部屋へ戻ろうと踵を返す。その時、テラスで見覚えのある背中を見つけた。
左右に揺れる体おぼつかない足。今にも倒れそうな天月をフェンはしばらく見つめていた。
明け方ちかくになり部屋へ戻ると、そこにフェンと葵がいた。
「はい、残念。ぜんぜんだめだね」
隣に寄り添ってきたフェンに葵は、声にならない叫びを上げる。
「夜這いに来ちゃった」
そう言いながらパチンッとウインクされている。
「お断りします」
「ふふ。そう言うと思った。でも、どこにも行かないよ」
2人のやり取りを無視してベットに座ると、フェンが隣に座ってくる。
「なんですか」
「疲れてるみたいだから癒してあげようか」
嫌な気配が近づき天月は小さな結界を、フェンの頭部に当たるように貼った。案の定フェンはその結界に頭を強打した。何が起こったのかわからないフェンは、自分の額を抑えながら何度も目を瞬かせている。
フェンを横目に確認して眉を寄せながら問いかける。
「何してるんですか」
「え、なんでもないよ。ちょっと驚いただけ」
「ふーん」
なんでもないと言っている割には瞳が驚きで揺らいでいた。その姿がどうしても面白くて肩を揺らし耐えていると、葵が遠い目で2人を眺める。そんな葵にフェンはまたからかいに入った。
「どうしたのベビちゃん。あ、もしかして」
「早く魔法を教えてください」
「葵は真面目だね」
「え」
葵に近づいたフェンもぽつりと呟いた天月を見つめた。彼はどこか不思議そうな顔をする。そして彼の横にいる葵は顔を曇らせた。