第5章 契約と思惑
23時
早く大浴場の掃除をしに行きたいとそわそわしながら、フェンの横に立ち彼の手元を見る。
何も書くことがないのか、ずっと真っ白なままの紙をペンで叩いてるだけだ。
「うん……」
「あの、そろそろ部屋に……」
「まだダメ」
「…………!」
「天月ちゃんがいてくれないと、作品のインスピレーションが沸かないよ」
「ただ隣で立ってるだけなんですけど」
「ああごめん。座る?」
「じゃあ失礼して………じゃなくて……!」
フェンはクスクスと笑う。
「もう本当に帰りますから」
「あ……ちょっと待っ」
フェンの止める声も聞かず、バタンとドアを閉めた。
……
1人寂しく風呂掃除をしていると、ガチャリっと脱衣室の扉が開く。
「すみません。今掃除中で………ってえっ!」
「あ、ここにいましたか」
「ロイさん、私に何かご用事でしたか?」
「僕もお手伝いいたしますよ」
「いえ、ロイさんのお手を煩わせるなど」
「ふっ。あなたの目は手伝ってほしいと訴えていますよ」
「あ……えっとそれは……」
「2人でやった方が早い。ばれなければいいんです」
そう言いニコリと笑うロイ。
掃除道具をひょいっと奪われどこまでやったのか聞かれる。
「あ、はい。こっちはもうすぐ終わるので、ロイさんは浴槽をお願いします」
「わかりました」
ロイはニコッと笑い、スポンジと液を渡すと彼は掃除を始めた。王子様が風呂掃除なんて誰も予想つかないだろう。
チラチラロイを見て笑いそうになるのを耐える。シャワーをつけ泡を流している時もつい見てしまう。目が合えば優しく微笑まれ天月もふっと笑った。
ロイは天月が笑ってくれたのが嬉しかったのか、鼻歌まじりに手を動かす。
結局、風呂掃除が朝方までかかってしまった。
ロイには先に帰ってもらったが、やはりロイには男子用大浴場を洗ってもらえばよかったかと思うが、あれ以上手伝ってもらうのは気が引ける。これが日本人のさがであろう。
掃除用洗剤をスポンジにつけて、ごしごしと壁やシャワーヘッドに泡をつける。その後、浴槽の中を洗って泡を流せば終わりだ。
「……ふあーっ、早く部屋帰って寝よ」
伸びと同時に欠伸を溢した。