第5章 契約と思惑
……「今夜23時寮の玄関で」
葵に伝えられた待ち合わせ場所に行くと、ヴァイオレットが明るく手を振っていた。
「あっ天月ちゃーんこっちよこっち。フェンもちゃんと連れてきたわよ」
「俺がいつも遅刻しているみたいな言い方、やめてくれるかな。お待たせ、じゃあ行こっか」
「行くってどこへですか」
「あら、聞いてないの?今日は天月ちゃんの歓迎会よ。チーム・モデアにようこそってことでね。さあ飲みまくるわよ」
「レディには負けないよ」
「…………はあ」
2人は肩を組みそうないきよいで外へ向かう。
「……歓迎会ねえ」
(あー、めんどくせえ、なんとか契約書を破棄する方法見つけなきゃな?)
「……」
寮から出ようとすると美術教師の先生が歩いてくるのが見える。先生は大事そうに何かを抱えこそこそと周囲を見渡していた。
「……っ?」
「天月ちゃーん、はやくはやく」
先生の行動に、後ろ髪を引く思いになりながら3人の元へ向かった。
……
歓迎会と称して入ったパブから出ると、細い石畳の路地で2人を待つ。
「ごちそうさまー」
「まいど、また来てくれよ」
少し遅れて出てきたフェンとヴァイオレットは肩を組んでいる。支え合っているのにも関わらず2人ともかなり千鳥足だ。
「ふふ、ふふふふ……お待たせ♪」
「誰ですかあんた!怖いんですけど」
「俺だよフェンだよー、ふふ」
あまりの酷さに笑みが引き攣る。
「フェンなら大丈夫。あたしたちお酒はすっごく強いのよ」
「ふふ。つよいんだよ。んふ……ふふ」
「はあ、そうですか」
真っ直ぐ立てていないし、不自然なほど笑っている。酒に飲まれすぎだ。少し面白くてクスクスと笑ってしまった。
「あ、天月ちゃん笑ったでしょ」
「笑ってません。もう帰りましょう」
「ベビちゃんはもうおねむかな?」
「そうですよ」
「まだ寝ちゃだめ。夜はまだまだこれから、今夜は寝かさないからね……ふふ、ふふふ」
「さあ次行くわよ」
「行こー!」
「あはは、ふふ。んふ……」
「えー、マジ?」
2軒目のパブを出ると、遠くの空が白み始めている。人通りも減り町は朝を迎えていた。
「もう眠いんですけど……」
「あ、シャシリク」
「はあ?」
道脇の露天から煙が上がっている。
天月は眠さのあまり壁に寄り掛かった。