第5章 契約と思惑
「よくも……盾にしてくれたよねえ?」
また何か言われると思い私は身構えるが、天月さんはニヤリと笑む。
「いいんじゃない?君にしては上出来だと思うよ。その作戦に乗ってあげる。その代わり、借りはまとめて返してもらうから」
天月さんはどこか挑戦的に笑いながら、私の目の前に歩み寄ってきたと思えば、私の右側にある窓枠に足をかけ身体を投げ出す。
「天月さん!」
慌てて窓枠に手をかけ身を乗り出すが、そこにはもう誰の姿もなかった。
私は緊張が抜けよろよろと腰を落とす。ようやく重圧に逃れられて安心した途端、身体が震える。
少し時間をおき部屋に戻ると、天月さんはいなかった。ドアの隙間から覗き込んでいると背後から声がかかり肩をびくりと揺らす。
「どうしたの?葵」
「あ……シェリー」
「入らないの?」
「……ううん」
シェリーは私の重々しい雰囲気を察したのか苦笑いを零す。
「よかったら私の部屋に入る?」
「え、でも……」
「いいからいいから」
シェリーは私の手をぐいぐい引っ張る。
「うん。じゃあお邪魔になろうかな」
「ふふふ。どうぞ」
夜の空に浮かぶ星を見ながら1人佇んでいた。
彼女の瞳は暗くその瞳には夜空に浮かぶ星は映っていない。
「お前……いつまでそこに立っているきだ」
視線を空からゆるりと下ろし、声のする方に目を向ける。
「ああ、なんですか。急に話しかけないでくださいよ」
「お前がいつまでもそこにいるからだ」
「とくに用がないなら呼ばないでもらえます?鬱陶しいもので」
「お前、その減らず口はなんとかならないのか」
「これは元からなのでなんともならないですね」
「……はあ。もういい勝手にしろ」
ガイと言葉を交わした後、少し離れた森の中に足を運ぶ。そして地面に倒れ込み目を閉じた。
……月明かりのみが照らすビルの中、階段を駆け上がる足音が聞こえてくる。
(やめろくるな……くるな!くるなっこないでくれーっ!)
私は目の前の誰かに向けて銃の引きがねを引いた。
勢いよく目を開くと、視界に広がるのは澄んだ青で何度か目を瞬かせる。
「あっやべ仕事!秀信の奴なんで起こさなかったんだよ。今日は朝4時から会合があるのに……って、ここ魔界だった」
苦笑していると、頬に流れるものに気づき困惑しながらそれを拭う。