第5章 契約と思惑
天月さんにいままで起きた出来事をどう伝えようかと思い悩んでいると、喉の奥で笑う声が聞こえてきた。
「っククク……はは」
「……!」
ばっと笑い声のする方に振り向けば、いつの間にかそこにいたのか、壁にもたれかかる天月さんの姿があった。
何がそんなに面白いのか、肩を震わせながら笑っている。
「……」
何も言えず呆然としていると、ようやく笑いを収めた彼女は、鋭い視線をやる。その視線に今度はまた何を言われるのかと身構えるが、放たれた言葉は予想外だった。
「そうきたか」
だが、安心したのも束の間、容赦ない質問をぶつけられる。
「彼に希望でも感じた?彼に安らぎを感じた? それとも、彼に優しくされて安心でもした?」
「……そ、それは」
「ウチは君に忠告したはずだよ。それを華麗に受け流されるとはねえ」
「……」
「馬鹿だよねえ、自ら傷つけられに行くなんて。知っていたはずだよね?なのになんで彼を信じるの?ほんと無能だよね君。それでどうだった裏切られた気分は……」
彼女の瞳は酷く冷たい。あの時フェンさんに向けられた冷ややかな視線とは比にならない笑みだ。
恐ろしいと思った。
それはまさに、自分が戦場にいて天月さんと対峙しているかのようで。きっと天月さんの気に触ってしまったのだろう。じゃなければこんな風に言ってはこない。
「天月さんにはいないんですか、信じたい人信じれる人、守りたいものが……」
少しの沈黙の後、冷たく言われた。
「……ない」
そうだそもそも私が自分の意見を伝えても、身につけたスキルを実行しようとしても無意味。
なぜならば、私と彼女の常識は百八十度違う。
言葉でかなうはずがない。価値観が違うのだ私のような甘い考えなど、何度も命のやり取りをしている彼女には通じない。
私は一般人で彼女は……」
生きる世界が違いすぎる見ている世界が違いすぎる。
「いつから見てたんですか」
「最初から」
「……!」
思わず目を見開く。
「……嘘」
「嘘じゃないさ」
「でもフェンさんは気づかなかった。そんな所にいたら真っ先に……」
「君は気を知っているかな?」
「……」
「簡単に言えば、完全に気配を消してたんだよ」
「じゃ、じゃあキス……も?」
恐る恐る聞くと鼻で笑われ顔が熱くなる。