第35章 商人の嘘は神もお許し
「わたしの管理が不十分でしたかね。覗かれた気がしたんですよね、あの日……」
丸木戸はふうっと溜息をつき、俺にちらりと視線を投げた。
ぴく、と肩が跳ねる。
丸木戸は俺に射すくめるように見、口元で笑みを作った。
「時雨先生って斗真先生とすっごく仲良かったですよね。女の園で、たった二人だけの男性教師ですから当たり前かもしれませんけど」
「別に、仲が良いって訳じゃねえんだけど……」
ボヤくように吐いた俺の言葉が虚しく響く。
心臓がどくどくと脈打っている。
丸木戸はそんな俺の心中を知ってか知らずか、余裕のある笑顔を崩さない。
「きっと寂しくなりますね、お互いに」
含みを持たせた言い方に、俺は丸木戸を睨むように見ていた。