第35章 商人の嘘は神もお許し
「丸木戸……」
「え……何ですか?」
「その……少し、話があるんだけど……」
丸木戸が怪訝な目で俺を見る。
「……何の話ですか」
「この学園の教師と関係を持ってないか、っていう……」
恐る恐る話を切り出すと、丸木戸の目付きが変わった。
完全に据わったような、落ち着き払ったような、見たことの無い表情を浮かべ、
「……見たんですか?それとも噂話ですか?後者なら、しらを切りたいんですけど」
俺を真っ直ぐに見つめ返した。
「…………」
「良いですよ、隠さなくても……。やっぱり時雨先生だったんですね。見たんでしょう?」
丸木戸は眉を下げて笑い、自ずから生徒用の椅子に腰を下ろした。
対照的に俺は立ち竦んだまま動けない。
滔々と語る丸木戸に見入り、聞き入り、手のひらはうっすらと汗ばんでいた。