第35章 商人の嘘は神もお許し
保健室のドアがノックされる。
そこからにこやかに覗いた顔を見て、俺は鼓動が早くなる。
「こんにちは時雨先生、保健係です」
丸木戸を見た瞬間、身体の芯がかっと熱くなる感覚に襲われる。
いつもと何も変わらないその様子に返って心がざわつく。
俺はぶっきらぼうに頷き、
「今月の保健だより、掲示板に貼っておきますね」
丸木戸を盗み見る。
心臓が五月蝿い、脳裏に焼き付いたあの光景がフラッシュバックする。
丸木戸はホワイトボードに保健委員お手製の通信を貼り付け、こちらに笑顔を向けた。
はにかんで笑い、頭を軽く下げた。
「……それじゃあ、失礼します」
丸木戸が背を向けるのを見て、咄嗟に椅子から立ち上がった。
丸木戸が驚くのも構わずに、俺は丸木戸を呼び止めていた。