第39章 ・・・殺す
“早く体育館倉庫に行って、
山田さんが危ないのっ!”
断末魔に似たような叫びが体育館中に響き渡ったかと思った次の瞬間には、既に赤司は体育館を飛び出していた。
何が起きたのか分からず、状況を理解するのに一瞬時が止まった。
花子が危ない・・・・?
しばらくして漸く理解したオレは赤司から遅れながらも、そこを目指した。体育館倉庫の入口に手をかけようとしたとき、そこから2人の男が慌ただしく出て行った。
その姿を見て、どんな風に危ないのか分かってしまったオレはどうかその予想は外れて欲しいという思いで中に入った。
「花子っ!」
しかし、目の前に飛び込んできた花子の姿を見てオレは言葉を失った。欲液で汚された身体に、切られた頬、赤司のジャージの上からでも分かるボロボロにされた制服。
当の本人は真青な顔をして気絶しているのか、目は閉じたまま赤司の腕の中にいた。
「・・・おい、灰崎。・・オマエがやったのか?」
やっとの思いで絞り出した自分の声は、今まで聞いたことないほどに小さく震えていた。
「だったらな」
「ふざけるなっ!!」
涼しい顔をして肯定した灰崎の言葉を最後まで聞いていられるほど、今のオレは冷静さに欠けていた。気付いたときには、震える手で灰崎の胸ぐらを掴んでいた。
ボコボコに殴る。そう決めたときだった。
「やめろ、緑間。」
いつもより低い声の赤司がそれを制止すると、赤司は花子をマットに寝かし、スっと立ち上がった。
「お前が殴る必要はない。その手を離せ、」
「チッ、」
「あれぇ?赤司、怒ってねぇの?」
掴んでいた灰崎の胸ぐらを乱暴に離し、舌打ちしながら睨んでみたが、奴は反省どころか開き直り始めた。
「オマエらが想像してるようなことはしてねぇよ。ヤリたかったけど、処女だし?ガキすぎて全然勃たな」
「・・・殺すっ!」
話の途中で落ちていたカッターを拾った赤司は、それを灰崎に目掛けて振りかざしたのだ。一瞬のことで何が起きたのかオレにも分からなかったが、灰崎の運動神経でもそれを完璧に避けるのは難しかったのだろう。
花子と同じように灰崎の頬からも、血が流れていた。