【B-PROJECT】(完結)あなたの瞳に永遠を誓います
第74章 必要な犠牲
「あの、写真......」
「もういいんだよ」
向かい合わせに座ると再び抱きしめられる。
夢じゃないなら......現実なら......彼の背中に腕は回せない。
公表されても何か考えがあるのかな?
早く帰らないと。
「助けてくれて......ありがとうございました。これで私は無事にオーディションで選ばれた人と結婚できます」
最後に助けてもらって、その上触れてもらえるなんて......都合の良い夢みたいだけど。
身体が離れて彼と目があった。
「もし記憶が戻っていたとしても......同じ決断をする?」
どうして、そんな悲しそうな顔するの......?
記憶が戻ってたとしたら、この彼が......昔の彼だったとしたら?
こちらを見る眼差しは、昔のまま。
彼もこんな風に私を見つめてくれてたな。
「増長さんに、別の大切な人がいるならやっぱり身を引きます。今度は『相手が私じゃなくても良い』て言いたくなかったけど、元婚約者を盾にして『無理矢理』は......やっぱり違いますよね。離れた後で記憶が戻っても、その時に隣にいる人を大切にしてあげてほしいんです」
やっと気づいた。
『側に居たら傷つけるから離れる』
この選択は昔の彼の思いより今の彼の思いを大切にしてるってことだ。
結局私はどっちの増長さんも大切だったんだよね。
あの時守ってくれた彼。
その決断を受け入れて後悔してないから今の彼の気持ちを一番に尊重しようとしたんだな。
今更だけど気づいた。
ううん。
気付けて良かった。
愛し方は難しい。
記憶が全て戻った時はその前に彼の元を去った私を恨んでくれればいい。
側に居る他の人を愛して私のことは忘れてくれたらいい。
そして誰よりも幸せに暮らしてほしい......増長さんの幸せが一番で......それ以外は何が正しくて何が間違いかなんて私にはもう分からなかった。
「助けてくれてありがとうございます。帰りましょう」
今は胸が痛い。
ずっと痛くて......彼と二人の空間は幸せなのに、ぽっかりと胸に穴が空いたみたいだ。