第9章 現世編(後編)
藍染を本当に止めることが出来るのは、アナタしか居ないんスよ。ゆうりサン。
そんな言葉が喉まで出かかったところで飲み込んだ。言葉の続きを聞けなかったゆうりはただ眉を下げて小首を傾げる。ちゃぶ台に手をつき立ち上がった彼女は浦原の隣へ腰掛けた。そして先程叩いた彼の頬へ手をあてる。ほんの僅かに赤くなっていた頬は既に元の白い肌へと戻っていた。
「……ごめんなさい。」
「いいえ、ボクも少し強く言い過ぎましたから。気にしないで下さい。」
「…でも、もっと話して欲しい。喜助が尸魂界を守りたい様に、私だって守りたい。だから知ってることはちゃんと教えて。どんな事でもちゃんと受け止めるから、独りにしないで……。」
か細い声で言葉を紡ぎ、きゅっ、と浦原の羽織を握るゆうりがとても小さく見えた。まるで幼かった頃の彼女を見ているようで浦原は困ったように笑う。
…成長しようとし続ける彼女を子供扱いし続けていたのはボクの方だったのかもしれない。彼女を巻き込まない様に、極力傷付けないように…そんな想いが寧ろ彼女を傷付けてしまった。崩玉の事も、朽木サンの事も、もっと早く伝えておけば良かった。
浦原はそっとゆうりの体躯を抱き締め華奢な背中を優しく撫でる。その手が大きく、今まで何度も触れて来た手でとても安心出来た。
「独りになんてしませんよ。不安な思いをさせてすみません。けれどボクは誰一人裏切りません。だから泣かないで下さい。」
「う……うぅー…!!叩いてごめんね…!」
「大丈夫ですって!あんなの痛くも痒くもありませんから!ゆうりが朽木サンを大事に思っている事はよーく伝わりました。絶対、助け出しましょ。その為には黒崎サンにももっと強くなってもらわないと…ね。」
胸板に顔を押し付けぽろぽろと涙を零すゆうりの頭を軽くぽんぽんと叩きいつものように陽気に笑う。
泣いたのは久し振りだった。不安を吐露したのも、怒りを顕にしたのも久し振りだった。それだけゆうりにとって浦原は特別で、大切な男なのだ。
小さく鼻を啜ったその時、商店中に一護の悲鳴が響き渡る。思わず浦原の腕の中で身体が大きくはねた。
「ははっ、どうやら黒崎サンが目を覚ましたみたいですねぇ。行きましょうか。」
「ん…なんでこんな悲鳴…?」