第9章 現世編(後編)
浦原の正面に座りお茶をひと口すする。その音だけが静寂した部屋に響いた。互いに何も言わない。ゆうりと浦原以外に誰も居ない。あまりの気まずさに、先に口を開いたのはゆうりだ。
「……夜一さんから少しだけ、話を聞いたの。私、喜助が尸魂界に戻れないなんて知らなかった。…追放がそんなに重いものだなんて知らなかったの。ごめんなさい。」
「ゆうりが謝る事じゃ有りませんよん。それに、アナタの言い分も分からなくはありません。実際、ボクは朽木サンの人生をめちゃくちゃにしてしまう可能性が有る賭けに出たんスから。」
「…賭け?」
「黒崎サンに死神の力を譲渡した時点で、彼女に崩玉を埋め込む事を決めていました。元々力の譲渡は尸魂界でも重罪です。彼女の罪を全て帳消しにしつつ、守る為にはこれが1番なんスよ。全て藍染が画策した事…そう尸魂界に思わせるのが1番手っ取り早いですから。」
「守る…?あっ…。」
ゆうりは弾かれたように顔を上げた。確かに、ルキアの犯した罪は消えることが無い。一護に力を渡してしまった事実そのものは、否定することが出来ないのだから。それも踏まえた上で彼はルキアをそのまま見送り、全てを一護に賭けることを決めたのだ。
「…頭を冷やせ、ってそういう事だったのね。」
「えぇ。ボクは、黒崎サンとゆうりなら朽木サンを救出出来ると信じています。だからこそこんな大きな賭けに出たんスよ。…崩玉の事は、ゆうりにも伝えるつもり無かったんですけどねぇ。黒崎サンにもナイショにして下さい。彼は色んなことをいっぺんに処理するのは余り得意では無さそうですから。あくまで、彼女を救う…その一点のみ考えて貰います。」
「………。」
返す言葉が見つからなかった。彼は自分よりもっと多くの事を考え、広い視野で物事を見詰めている。それを知らずに手を上げてしまった事がとても申し訳なく思った。ゆうりはぎゅっと手を強く握り拳をつくり顔を下へ向ける。
「…私、から回ってばっかりね。どうすれば皆の力になれるの…?どうすれば良い…?不甲斐ない自分が嫌でしょうがないの…。」
「なぁに言ってんスか!ゆうりにはゆうりにしか出来ない事が有る。あたしは頭が回る代わりに、尸魂界で力を貸すことは出来ません。アナタにはそれが出来る。それに多分…」