第9章 現世編(後編)
真顔で投げ掛けられる問いかけにゆうりは目を見張った。彼女は人間になってしまう事で死神としての地位を、家族を、仲間を、全て失ってしまう事になる。そんな事許されるはずが無い。彼女が犠牲になる理由などひとつも無いのだから。
「私に埋めてくれれば良かったのに…。」
「それは出来ません。ゆうりの霊力は隊長と遜色が無い。封印しているといえど何かが切っ掛けで崩玉が目覚めてしまったら貴方が虚化してしまう。朽木サンは、その心配が有りませんから。彼女しか居なかったんです。」
「でもッ……!」
「これしか無いんスよ、世界を守るには。納得してくれとは言いません。でも、朽木サンにはどうか内密に……ッ!!」
パシンッ、と乾いた音が響く。次いで感じたのは微かな頬の痛み。叩かれた…浦原がそれを理解するのに数秒の時間を要した。
視線をゆうりへ向けると、彼女の瞳には薄らと涙が滲んでおり眉間には皺が寄せられている。怒っている、それは直ぐに分かった。
「…ルキア独りが苦しんで得られる平和なんて私は欲しくない。誰かの犠牲の上で得られる日常なんて私は要らない。それなら私は真っ向から藍染と戦う事を選ぶわ。人の人生を、勝手に踏み躙るなんて私は絶対に許さない。」
「はぁ…これはまた、随分人間臭い事を言うようになりましたね。」
「きゃ…!!」
ゆうりの視界が突如反転した。背中が床に着くと同時に顔の横を細い棒の様なものが突き立てられる。それは彼の斬魄刀だった。浦原は彼女の体躯を跨ぎ片膝を立て、己の愛刀をゆうりへ向けたまま唇を開く。
「護廷十三隊の仕事は仲間を守ることじゃあない。現世と尸魂界の魂魄を均等に保ち、バランスを崩さない事と、現世に住まう人間を守る事だ。情に流されるばかりじゃ、何も守れない、成し得ない。」
「だからルキアには犠牲になってもらうって?馬鹿な事言わないで。崩玉を造ったのは貴方の都合よ。それを、何も知らない他人を巻き込んで最後は知らん顔なんて最低。」
「…落ち着いて、ボクの話を最後まで聞いて下さい。朽木サンは…」
「これ以上喜助から聞くことも話すことも無いわ。ルキアを義骸から引き剥がす。」
「させません。」
「ッ…!」