第9章 現世編(後編)
あの巨体で、人の密集するこの地で虚閃なんて放たれれば何人死人が出るかわかったものでは無い。一護達だけでなく、ここで生きる人間達が何人も死んでしまう。
流石にそれを見過ごす訳にはいかない。ゆうりは咄嗟に斬魄刀へ手をかける。だが、その手は浦原に掴まれ阻止された。
一護は虚を見上げ、固まる。高い霊圧を受けて全身の血液が沸き上がる様な感覚に息を飲む。霊圧の探査能力はほぼ皆無に近いものの本能的に、ヤバい攻撃が来ると察したらしい。
「…やはりこれ以外に方法は無い!行くぞ黒崎!僕の身体にもう一度刀を接触させ……ろ…く…くくく黒崎!?待てこらどこ行く黒崎っ!!!」
「一護!!」
「あっ……!ゆうり!」
弓を構えた石田の声も聞かずに一護は大虚の懐まで潜り込んだ。虚の目がジロリと彼へ向けられる。霊圧を高めながら口元で赤い光が集まる姿にゆうりは浦原の手を振り払い彼の傍へ駆けた。しかし辿り着くよりも先に大虚の口から虚閃が放たれる。圧縮された力の塊は一護目掛け一直線に伸びていく。彼は斬魄刀を両手で握り頭の上で光線を受け止めた。キィィィ、と金属がぶつかり合う様な高い音が辺りに響き渡り、ゆうりはその場で立ち惚けた。
「は…弾いた…ッ!?」
「あれは…共鳴…?」
ゾクリとゆうりと石田の背筋が震える。虚閃を受ける一護の霊圧がみるみると増大していく。本来力と力のぶつかり合いでは力の強い方が弱い方を呆気なく押し潰してしまう。虚閃の力は一護の持つ霊圧を遥かに上回っていた筈だった。けれど、大虚の攻撃を受ける事で砂の中に埋もれた力という名の砂鉄が、虚閃といういわば強力な磁力によって無理やり掘り起こされるかの様に眠っていた彼の霊気を引きずり出しているのだ。故に対等…いや、それ以上。
軈て全開にまで力を引き出された一護はたった片腕で虚閃を止め、尚且つ斬魄刀を振り上げ巨大な斬撃を大虚へ放つ。太刀は虚の大きな体を縦に両断した。
「ッわ…!」
「こんな…こんな事が…一護め…メノスを…両断してしまいおった…!!」
「…霊圧が…揺れてる……。」
両断されたものの完全に真っ二つとまではいかなかった虚は大きな悲鳴を上げて空の亀裂から帰っていく。
素晴らしい一撃だった。あんな威力を出せるのはおそらく副隊長以上の死神位だ。