第9章 現世編(後編)
隣に並ぶ浦原の横顔を盗み見る。何故わざわざ井上達を巻き込むような事を言っているのか、しているのかが全く分からなかった。人間である彼等がわざわざ自ら関わるべき事柄では無いと言うのに。彼の真意がまるで汲めない。
彼が向かったのはなんでもないただの廃ビルの5階だった。ただ一つ言えることはそこからは虚と戦う一護と石田が良く見える。
「危険ですのでこれ以上は近付かないで下さい。あたしらは彼らに加勢して来ます。」
「よっしゃあ!行くぜ!!」
「ひ、1人で走っちゃダメだよジン太くん…!」
「……私達も久しぶりに行くよ、蘭。」
鞘からスラリと斬魄刀を引き抜きゆうりは窓から飛び降り浦原達と共に一護達の元へ走った。
その途中、空に出来たヒビが1箇所へと集まり無数に居る虚はその一点へと向かっていく。全く以て普通では無い光景に思わず足を止める。上から思い切り押し付けて来る様な重圧的な霊圧にゆうり目を丸める。この霊力、並の虚では有り得ない。
軈て縦に割れたヒビから大きな顔が覗く。癖のない楕円の形をした仮面は鼻が長く尖っており、体はまるで人が大きな布でも被っているように真っ黒だ。それは、教科書でしか見たことも無い位稀有な虚だった。
「もしかして…大虚…!?」
「ついにお出ましっスねぇ。ボクらも急ぎましょ。黒崎サンがアレに集中出来るように。」
「一護にメノスを処理させる気!?」
「えぇ。ボクらは周りの雑魚と、割れた空の修復のみ行います。それ以外は黒崎サンに任せてみましょ。」
「…何の為に?」
「この先の戦い、彼無しではいけませんから。」
そう言って浦原は静かに笑った。
喜助も、胡蝶蘭も一体私が知らない何を知っているのだろう。何の根拠をもって彼が必要だと判断し、この先の戦いをどう見据えているのだろう。
まるで自分一人置いて行かれていくような歯痒さにゆうりは顔を顰め、それでも先をゆく彼の後ろを追い掛けるのだった。
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