第9章 現世編(後編)
「……黒崎一護、彼は確かに死神として並外れた霊力を持っている…だが、その有り余る力を扱う術はあまりに拙い。それゆえ彼の力は意志を持たずただ闇雲に流れ出るだけ…その流れ出た霊力はその濃厚さ故にあらゆる霊なるものに影響を及ぼす。そしてそれはキミたちに於いても然り…。」
「…思い出して。2人は過去に幾度か、死神姿の一護に接触した事がある筈だよ。」
「そしてキミたちに生まれた能力は…黒崎一護との接触によってキミたちの魂の底から引き摺り出されたキミたち本来の能力なんですよ!!」
「黒崎くんと接触して……あたし達の能力が引きずり出された……?」
「そっス。」
「ちょ…っ、ちょっと待って下さい…意味が…よく…」
「わからなくて結構。キミたちの"変化"は病に罹ったワケじゃない。ただ目の前に現れた扉の鍵を渡されただけなんスよ。原因を知る必要も無ければ我が身の不幸を嘆く必要も無い。手にした鍵で目の前の扉を開くも閉じるもキミたち次第。開いたならばその奥に。足を踏み入れるかどうかもね。」
話を聞いた井上と茶渡は目を見開いた。それでもまだ全てを受け入れられないといった様子だ。今まで大きな不自由もなく平穏に暮らしていたというのにそれが、今にも崩去ろうとしているのだ。気持ちは分からなくも無い。
張り詰めた空気で沈黙が続く中、襖が開かれ正座した握菱が姿を現した。
「店長。"空紋"が…収斂を始めました…!」
「そうか……。準備は?」
「万端!」
「よし、それじゃ行こうか。」
「待って、外套持ってくるから。」
「…いや、必要無いでしょう。直ぐに戦争は始まる。」
「……そう。」
黒い羽織を翻し、店を出ていく浦原の背中をゆうりは瞳を細めて見詰め後ろについた。
"戦争が始まる。"
その言葉の意味は直ぐに理解が出来た。置き去りになりそうな井上は慌てて声を上げる。
「ちょっ…ちょっと待って下さい!あたし達まだ…」
「ついて来ますか?」
「………え…」
「見せて差し上げますよ。自分たちで確かめるといい。これからキミたちの踏み入れる世界を。そして、キミたちの戦うべき敵をね。」