第9章 現世編(後編)
ゆうりと握菱は手分けして倒れている生徒たちに回道を使い治療へとあたった。幸い教師達が来る事もなく、誰にも見られずに終えると、浦原は倒れていた井上の傍に落ちていた髪飾りのピンをつまみ上げる。
「…なるほど、コレですか。」
「喜助、終わったよ。」
「ありがとうございます、ではそちらに倒れている彼女を連れて行きましょう。」
「織姫を?分かった。」
髪留めは浦原がポケットにしまう。ゆうりは気を失っている井上を背負う形で持ち上げた。握菱は相変わらず目を覚まさない茶渡を連れ、浦原商店へと踵を返す。
ゆうりは空を見上げた。青々とした空には幾つもヒビがあり、そこから虚がとめどなく出現し続ける。とても異様な光景だ。
「どうして急に虚がこんなに…。」
「さぁ…詳しい原因は分かりませんが、流石に少し手を貸す位はしないと黒崎サン1人では荷が重いかも知れませんねぇ。」
「私達も応戦する…?」
「…ま、それも考えましょう。それより今は、彼らに話をしてあげるのが先です。この先、生き続ける限り嫌でも見ることになってしまいますから。」
「…そうだね。」
1度開花した能力は簡単に消えるものでは無い。彼女達は人間でありながら、普通では関わることの無い世界に片足を踏み入れてしまったのだ。本来なら死神である自分たちが守らなばならなかったというのに、あんなおぞましいものを見せてしまった事をただ申し訳なく思った。
それから浦原商店に戻ると何より先に2人の治療を行った。そこまで大きな怪我も無く、治療はあっという間に終わり、2人が目を覚ますまで殆ど時間を要さなかった。
「ここ学校じゃない、よね…あれ!?ゆうりちゃん!?」
「おはよう、織姫。痛い所は無い?」
「大丈夫!…だけど、ゆうりちゃん、風邪でお休みしてたんじゃ…あれ?」
「落ち着け井上…染谷は風邪ではないらしい。それより、井上が起きたんだ。説明してくれ。」
「うん、今喜助呼んでくるね。」
「へ…?な、何が起こってるの…?」
状況が全く飲み込めず首を傾げる井上を置いて、浦原を呼びに部屋の襖を開けると、まるでタイミングを見計らったかのようにそこには浦原が立っていた。彼は腕を組み、口元をニンマリと緩める。
「ようやくお目覚めみたいっスね。」
「…えっと…だれ…かな…?」