第9章 現世編(後編)
「あっ…あったりまえじゃないスか!!マッドサイエンティストか何かとでも思ってたんスか!?」
「ふふ、冗談よ。」
読んでいた本を閉じて本棚に戻す。新しい資料集を手に取ろうと背表紙に人差し指を引っ掛けたその時、握菱が研究室に現れた。
「店長、朽木殿が来ておりますぞ。」
「ハイハーイ、今行きますよん。」
「行ってらっしゃい。」
「アレ、ゆうりは来ないんスか?」
「もう少し読みたいから。」
「そうですか。じゃ、ボクは1度離れますね。」
浦原と握菱が部屋を出て行くと残されたゆうりは再び床に座り込み手に取った資料を開く。もう何十年にも渡り保管されていたのか紙は褪せており、カサカサになっている。ゆうりは墨で書かれた文字を指で辿りながら目を通した。
「……研究者ってまるで自分と全然違う頭の造りをしてるみたい。色々読んでみたけれど、分からないことが半分以上あるもの。」
『浦原喜助はそもそも天才というヤツだろうからね。』
「あ…蘭。また勝手に具象化して。」
『どうせ1人で暇だろう?』
義骸を着ているにも関わらず、聞こえてきた声に顔を上げるとそこには己の斬魄刀が勝手に具象化して立っていた。ゆうりは小さく溜息を零し本を置く。
「魂の限界強度を越える、って結局どんな物を造ったんだろう。」
『知りたいのか?』
「そりゃあ…まぁ…藍染は霊王を殺す気でしょう?でも霊王の傍には王族特務の零番隊が居る。少なからず彼はその零番隊より強くなくてはならない。その為に自分自身の魂の限界強度ってヤツを越えるつもりでいるなら、それを可能にさせてしまう物質そのものを壊す必要があると思わない?」
『考えは良いと思うよ。だが、それは難しい。嘗て浦原喜助は"ソレ"を破壊しようと試みたが、出来なかったのだからね。』
「……ちょっと待って、それどういう意味?まるで喜助が持っているみたいじゃない。」
『聞いていないのか?浦原はその物質が何かを知っている。そして、今その行方は……』
胡蝶蘭の言葉の途中、遮るように外でドクンと大きく魄動が揺れる感覚が肌を刺した。彼は直ぐに斬魄刀へ戻り、ゆうりは慌てて玄関へ向かう。そこでは伝令神機がけたたましく鳴り響き、目を見開くルキアと向かい合う形で浦原が座っていた。