第9章 現世編(後編)
ルキアは至って冷静に答えたが、顔を顰めて問い掛ける一護にゆうりは目を見開いた。義魂丸はあくまで物質であり"人格"もまた作られたものでしかない。言わば人工知能に近いものだ。それをひとつの"生"として考え彼の気持ちへ寄り添い、こんな辛そうな顔をしている。
「…そ…それでオマエらは納得してるのかよ…?」
「納得するしないの問題ではない。改造魂魄は破棄しなければならぬ!これは尸魂界の掟なのだ!そして忘れるな!尸魂界の掟というのは…貴様ら人間の魂を守るために定められているのだ!!」
「………!!」
キッパリと言い放たれ一護は押し黙る。ルキアの言っていることは正しい。けれど、長らく人として過ごし過ぎてしまったせいだろうか。掟だと分かってはいるが何処と無く胸がズキリと痛むような気がした。…どうにか破棄ではなく、隠し通す事は出来ないのだろうか、そんな事を思う。
「さぁ!行くぞ!身体を取り戻したいだろう!?」
「…行こう、一護。」
「……おう。」
あいつは…俺の体手に入れてどんな気分なんだろう。勝手に産み出されて勝手に殺される事になって…何とかソコから生き残ってやっと体を手に入れたけど…そこでもやっぱり逃げ回んなきゃいけねぇ…それって…どんな気分なんだよ…。
一護は一護で煮え切らない思いを抱えたまま、ルキアの背中を追い掛けた。
「よく跳ねる高校生!?知らんのォ…見た事ないわい。」
「そうか…。」
ルキアは通りかかった八百屋の店主に話し掛け情報を得ようと試みる。ゆうりと一護の姿は勿論見えていないので何も言わず見守った。
「ほいじゃが…野菜を買うてくれりゃ思い出すかもしれんのォ…。」
「本当か!」
「おいっ!!」
「今日のザ・オススメは1個4500円のメロンよ。」
「あそこの八百屋のジジイはいつもああなんだよ!訊くなら他のやつにしろ!」
高い買い物をさせられそうになった彼女をすかさず一護が脇に抱えその場から逃げ出す。走って商店街を抜けようとしていると、ルキアの胸ポケットに入っている伝令神機が鳴り響いた。
「なんだよこんな時に!?まさか指令とか言うんじゃ…」
「残念だがそのようだ!5分後に虚!近いぞ!」
「2人は虚の方行って。私は一護の体探すから。」
「あぁ、頼んだ!行くぞ一護!」