第9章 現世編(後編)
井上の件から数日後。今度はチャドが虚に襲われたらしい。ゆうりは手出しをしなかったが、その話を聞いてなんだか違和感を感じた。
どうも一護の身内が狙われ過ぎている様な気がする。気の所為かもしれないけど、こうも高確率で同じクラスの人が虚に関わる事が有るのだろうか?町ひとつ管轄しているにしても、狭い範囲で事件が起こりすぎていると思う。
釈然としないまま退屈な授業を聞き流し右手に持ったシャープペンシルをクルクルと回す。
「考え過ぎなら良いんだけどね…。」
ペン回しを辞めて頬杖をつく。ぼんやりと黒板を眺めるゆうりの横顔を石田が鋭い目付きで見ていることに彼女は気付ことが無かった。
一護とルキアは三限の後どこかへ行ってしまった。霊圧が遠く離れていく辺り虚退治へ向かったのだろう。暫く経つと授業終了のチャイムが鳴り響く。訪れた昼休みに生徒達は両腕を伸ばし身体を解す者や、早速とばかりにお弁当を取り出す者と様々だった。
「イやっほーい!!おっべんとだあーーっ♡」
「まーーたこの子は!お昼くらいでそんなハシャがないの!」
「何言ってんのたつきちゃん!健全な女子高生たるもの、学校にはおべんと食べに来てるようなもんですぞ!?」
「ハイハイ、分かったからこっち来て座んな。ゆうりも食べようよ。」
「あ、うん!」
はしゃぎ出す井上を窘めた有沢に手招きされ、机の隣に掛けていたコンビニ袋を手に持ちゆうりは席を立つ。
机同士をくっ付け簡易的なテーブルを作った所でポケットに入っている携帯が震えた。直ぐに取り出すと待ち受けにはメール受信のポップが有る。開いて中身を確認すれば、それは浦原から送信されたものであった。
「なになに……"手違いで黒崎サンに改造魂魄の入ったケースを渡してしまいました…もしも見つけたら直ぐに回収して下さい。"」
「どうしたの?ゆうりちゃん。」
「…いや、私ちょっと行かなきゃならない所が出来たかも…。」
携帯の画面を見詰めたまま固まったゆうりに井上は一斤分の食パンに餡子を乗せて齧りながらキョトンとした顔で声を掛けた。内容を小さく声に出して読み上げた彼女は息を深々と吐き出し携帯をポケットへ戻す。…随分前に処分されたと聞いていたがまだ残っていたとは。
「ヒーメっ!一緒におべんと食ーべよっ♡」
「うん!いいよ!」