第9章 現世編(後編)
「織姫の?うん、いいよ。すぐに向かうから待ってて。」
『あぁ、ありがとう。』
用件だけ済ませ電話を切る。何時もの外套を羽織ってから胡蝶蘭を刀に戻し腰に携え、ようやく結界を解除すると指定された場所から小さくなってゆく虚の霊圧と、一護達の霊圧を感じた。直ぐに地下を飛び出し外に出れば、颯爽と夜空の下を駆けルキアの元へ向かう。
「結界張ってたせいで外の状況全然分かんなかった…改善の余地あるなぁ…。」
己の霊圧が漏れるのを遮断出来るのはいいが外の変化にも鈍くなってしまう。一護がこの町を守っている今、新米である身の彼に何が起こるかわかったものでは無い。もう少し外部へ気を配る必要がある事を自覚した。
井上のアパートに辿り着くとそこは随分凄惨な光景が広がっていた。井上は肉体から強引に魂を引きずり出されており、一護は血塗れな上に家は大穴があいている。ゆうりは地を蹴り2階の部屋へぴょんと飛び上がった。
「これはまた派手にやったね。」
「うぉあ!?ゆうり!?」
「ゆうりちゃん!?今どこから…!」
「このマントが姿隠してくれるんだよ。それより、なんで織姫が魂抜かれてるのか分からないけど…ここに呼ばれた理由は分かったわ。」
突然現れたゆうりに一護と井上は驚きの声を上げる。そんな彼らの言葉をサラリと受け流しつつ懐から記換神機を取り出した。
「黒崎くん!あたし色々聞きたいことが………あるんっ!!!」
「井上ッ!?」
彼女の言葉が最後まで紡がれる前にパタンと倒れていく。何が起こったのか理解する間すら無く気絶した井上に一護は更に驚愕の声を上げる中、ゆうりは何事も無かったかの様に作動させた記換神機に付いているひよこ頭のバネを戻しルキアに手渡す。
「すまぬな、記換神機を受け取るのをすっかり忘れていた。」
「私も渡すの忘れてたよー。とりあえず傷治していくからたつきにもソレ、宜しく。」
「あぁ。」
「待て待て、何したんだ今!!」
「記憶置換だ!今夜の事件の記憶を消して代替記憶を入れておいた。」
「キオクチカン…?」
「そうだ。まァ入れ替わる記憶がランダムなのがたまにキズだが…。」
「はい、織姫終わり。一護もじっとしててね。」
「おう…?」