第9章 現世編(後編)
「だけど、いつまでも此処で燻ってても何も変わらないわ。」
「…申し訳ないんスけどボクはね、もっと言ってしまえば彼らが明確に離反するまで手出しは控えた方が良いと考えてるんス。」
「そ……そんな事出来ない!離反するまで待てば、それだけ死神が犠牲になるかもしれないのに…!」
「じゃあ単独で尸魂界に乗り込みますか?相手は隊長、君は向こうで死神を殺した言わば反逆者です。下手をすれば隊長格全員を敵に回すことになる。何もかもを敵に回して、勝てる程甘い戦いじゃないんスよ。」
「う……。」
反論の余地も無い。彼の言っていることに不自然な点は1つも見当たらないからだ。だからといって、このまま藍染が離反するまでに誰も殺さず、とは考えにくい。…その前に何故彼は未だに尸魂界に身を置いているのだろうか。裏で一体どんな準備を進めているのだろうか。考える事は尽きず、唇を引き結び俯く。
そんなゆうりの両肩にポンと手が置かれた。顔を上げると浦原は瞳を細めて優しく笑う。
「ゆうりは貴重な戦力です。それを欠く訳にはいかないんですよ。分かって下さい。」
「…狡い言い方。」
「代わりにボクの研究室に置いてある資料は読んでもらって構いませんから。」
「えっ、いいの?」
「モチロン!ですので、もし1人で尸魂界に行くような素振りなんて見せたら…」
肩に乗せられた右手が鎖骨を辿り、親指と人差し指が顎先を捉えグッと持ち上げられる。帽子が作る陰から覗く瞳の色が暗く光り思わず体が強ばった。
「どキツイお仕置き用意するんでそのつもりで。」
「…は……はい。」
口元は笑っているのに、目が一切笑っていない。ゆうりが乾いた声で返事をすると、浦原は両手をパッと開きいつもの顔で笑う。ドキドキと悪い意味で高鳴る心臓を手で抑え、この男だけは本当に怒らせないようにしようと密かに誓いを立てるのだった。
その日、浦原から解放されたゆうりは地下で霊圧が外に漏れぬよう遮断する結界を張り胡蝶蘭と斬術の特訓に励んでいた。夜になり、休憩を挟もうと戦いの手を止めたタイミングで所持していた携帯が鳴り響く。
「もしもし?」
『ゆうりか?すまぬが井上の家に来れるだろうか。』