第9章 現世編(後編)
一護の部屋で話し込んでから数日が経過した日曜日。本来平日は昼に学校、帰宅してからは地下で鍛錬を行い休日は学校で出来た友人と遊ぶ事も有れば一日中地下に篭もり胡蝶蘭と斬術の特訓ばかりしている彼女に痺れを切らした男が居た。
「喜助…そろそろ離して欲しいんだけど…。」
「もう少し良いじゃないっスか〜。今日は予定無いんでしょう?」
「……もう。」
このやり取りも既に数回目だ。
学校に行き始めてからというもの、彼女と話せる時間はおおいに激減した。それに不満を抱いた浦原に起き抜けから捕まり、胡座をかいた彼の膝に乗せられ後ろから抱き締められたままの状態が続いている。ゆうりは腹に回された腕をそっと撫で手の甲に掌を重ね指を絡めた。
「そんなに拗ねないで下さいよ。」
「拗ねてませんよ。ただちょーっと黒崎サンと仲良くなり過ぎじゃあないっスかって言っているだけで。」
「それはつまり拗ねてるって事だと思うんだけど…。」
「違いますって、最近時間が無かった分触れたいんスよ。」
浦原の頭が擡げ眼下にあるゆうりの項へ鼻先が触れる。密やかな呼気が肌に掛かり膝の上に座る彼女の華奢な身体が小さく揺れた。
「ッ……ちょっ」
「しー、ウルル達に聞こえちゃいますよん。」
「誰のせいだと思ってるの?」
癖のない髪の隙間から覗く日焼けの無い綺麗な項に唇が当たる。湿った感触にゾクッと背筋が震え、咄嗟に膝から飛び退こうとするが元々腹に回されている腕がそれを許さない。
声を上げれば、店先で商品の陳列をしている握菱やウルル達に聞かれてしまう。
グルグルと思考が廻る中、彼の行為は止まらず短かなリップ音を態とらしく立て肌の見える箇所へ口付ける。気恥ずかしさから、重ねた手に力が入った。
「喜助……!」
「かーわいいなぁ。そんな困った顔されたら、余計意地悪したくなるじゃないですか。」
「…貴方こっちで再会してから本当に性悪になったわね。」
「そんな事有りませんよ、元からです。」
「ひゃ……ッ、もう!」
唇とは違う濡れた舌先がそっとなぞり項の中心付近で止まる。皮膚を強く吸い上げられる鈍い痛みに肩を竦めれば、顔を離した浦原はケラケラと笑う。