第9章 現世編(後編)
わぁ…なんだろう凄く暖かい…あたし何されてるんだろう…?
感じたことの無い、言葉で表すのも難しい感覚だった。撫でられてるわけでもなければ、ましてや触れられている感触がそもそも無い。ただ、お湯に浸かっているみたいに心地よい暖かさが脚を包んでいる。目を開いて見てみたい…そんな好奇心が沸き上がる。
そうこう考えている内に治療は終わる。鬼道を解いたゆうりはその場から立ち上がり手を後ろで組んだ。
「もういいよ。」
「はぁい……わっ、痣が消えてる!すごーい!!何したの!?」
「ふふ、秘密。せっかくだから送って行くわ。もう暗いしね。」
「えっ、でもゆうりちゃんも女の子だし…。」
「1人より2人の方が安全でしょ?私は親戚が近くに迎え来てるから!ほら行こう!」
「わわ、押さないで〜!」
悩む井上の背中をグイグイ押してその場から離れる。ゆうりは静かに後ろへ視線を向けた。真っ暗な道路脇でとても大きな蛇の尾に似た何かがひっそりと揺れ、遠のいて行く。
彼女の脚へベッタリと痣を残した虚はどうやら一次的に撤退を決めたらしい。それからゆうりに急かされ井上は己のアパートへ帰宅する。
その数日後、彼女の部屋で井上自身の人生を大きく変える出来事が起こるなど2人はまだ知る由もなかった。
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