第9章 現世編(後編)
ニヤニヤとした表情で一護の耳元へ口を寄せコソコソと話す一心に夏梨の鉄槌が下る。なんとも賑やかな家族の様子にゆうりは笑った。
「仲のいい家族だね。」
「まぁそうかもな…オヤジがから回ってるだけだけどよ。」
「そんな事ないよ。素敵だわ。」
初めて目の当たりにする本物の家族という存在は微笑ましく、そしてとても羨ましく思えた。
食事を終えたゆうりは彼らに挨拶を済ませてから帰路につく。少し曇っていて、明日には雨が降りそうな空模様だ。
「あれっ、ゆうりちゃん?」
「あ、織姫!買い物の帰り?」
「うん!冷蔵庫見たら何も無くて…ネギとあんことパン買ってきたの!ゆうりちゃんはお出かけ?」
「何作るの…?私はちょっと一護と話してたの。」
「黒崎くんと…。」
「ちょっと一護のご家族とご飯食べただけだよ!」
「え?あっ、ううん!全然気にしてないの!でも、良いなぁって…。」
「今度織姫も一緒に行く?一護のお父さん面白いんだよ。」
「うえぇ!?そんなっ、私が黒崎くんの家なんて…。」
ふるふると首を横に振った井上は何を想像しているのか顔を真っ赤に染めた。正に恋をしている少女そのもので、瞳を細め彼女を見詰める。そんな折り、ロングスカートから覗く白い脚に大きな痣が出来ているのが視界に入った。直ぐにしゃがみ込み足首から膝まで赤紫に色付いた箇所へ、そっと触れる。
「ゆうりちゃん?」
「…織姫、これどうしたの?」
「あ…なんだろうこれ?どっかにぶつけたのかな…。」
「痛くない…?」
「うん、全然!」
触れた肌から微かに虚の名残を感じる。けれど襲われた様子は特に無さそうだった。ゆうりは暫し黙り込むと顔を上げた。目が合った井上は小首を傾げ見詰め返す。
「…女の子がこんな大きな痣あるのは嫌でしょう?織姫、目を閉じて。」
「こう?」
「そう、良いって言うまで開いたらダメだよ。」
彼女がしっかり目を閉じたのを確認してから再び脚へ視線を戻す。右手を充てればふわっとした柔らかな光が痣を包む。