第9章 現世編(後編)
「おい、乗るな!分かった、分かったから!」
「分かったって何がー?」
「寂しい!寂しいです!!」
「ふふ、私も寂しい。だからもう少しこっちで過ごすつもり。安心して頂戴。」
半ば言わされた感は有るが満足したゆうりは一護の膝から降りて隣に座り直した。急に接近した距離に今も力強く拍動する心臓に手を当て彼は大きく息を吐き出す。
「ひ、人を弄びやがって…!」
「一護って派手な見た目してるのに意外とウブなんだね。可愛いー。」
「うるせえ!」
悔しそうに顔を顰める姿に冬獅郎を思い出す。尸魂界に帰りたいか、か…。そんな事しばらく考える余裕すらなかった。けれど、問われれば矢張り答えは1つしかない。
「近々こっそり帰ってみようかしら。」
「帰れるのか?」
「借りてる地獄蝶が居るからね。行こうと思えばなんとか。」
「地獄蝶…?」
「尸魂界へ安全に行く為には死神である事は勿論だけど地獄蝶っていう蝶が必要なの。居ないと……ちょっと面倒臭いんだよね。」
「へー、きっちりしてるんだなぁ。」
「誰彼構わず尸魂界に来させるわけにはいかないから。」
「ルキアが向こうに帰れるようになったら、俺の仕事も終わるんだよな…。」
「そうだね。義骸使ってるしそんなに時間は掛からないと思うんだけど…それに、早くしないと…。」
彼女自身、帰る場所を失ってしまう。
口には出さなかったが些か表情は強ばる。一護はそんな彼女を不思議そうに見下ろし瞬きを繰り返すのだった。
いつしか日が沈み、一護の妹である夏梨も帰宅し挨拶をした所で夕食の時間が来る。テーブルには美味しそうに盛り付けられたカレーとサラダが置いてある。遊子と夏梨が隣同士、反対側にゆうりと一護、そして夏梨と一護に挟まれる形で一心が座り食卓を囲んだ。
「ゆうりちゃん、来てたのか!」
「一護と少し話があってお邪魔しました。夕食まで頂いちゃってすみません…。」
「構わねぇよ、飯はみんなで食う方が美味いからな!…にしても一護も隅に置けねェなぁ。こんな美人捕まえて来るなんてよ。どこまでいったんだァ、このこの!」
「どこまでも行ってねーよ!友達だ友達!」
「またまたぁ!男と女が同じ部屋に居て何も起こらねェ訳ないだ…オゥフッ!!」
「いつまで言ってんのバカオヤジ!」