第9章 現世編(後編)
1階へ降りていく足音を聞きながらゆうりは床に鞄を降ろしベッドの下へ座る。こうして男の部屋に入るのはなんとも久しぶりな気がした。現世で駐在任務していた時以来である。彼が飲み物を持って来てくれている間に携帯を取り出し、浦原へメールを送る。画面に"送信完了"の文字が出てきた所で一護は2つのグラスを持ち戻ってきた。
「悪ぃ、待たせたな。」
「ううん、寧ろ気を遣わせてごめんね。」
氷の入った麦茶を受け取り、彼は隣に腰掛ける。ゆうりは二人きりの空間に緊張すら見せずお茶を1口飲むと一護へ顔を向けた。
「で、何が聞きたいのかな?」
「あ…あぁ。昨日、尸魂界から追放されたって言ってただろ?あれはどういう意味なんだ?何か悪い事でもしたのか…?」
「うーん…教えてもいいんだけど…ちょっと長くなるよ?」
「聞かせてくれ。」
「…分かった。私はルキアとは別の十番隊って所に所属していて、その中でも3番目の地位を与えられていたの。ある日、尸魂界に虚が出現してね、その討伐を十番隊が命じられた。」
「尸魂界にも虚って出るのか?」
「ごく稀よ。殆どは現世に出てくるわ。先に部下の子達が倒しに向かったんだけど、苦戦したみたいで私が後から助けに向かったの。虚は無事倒したよ。でもね…その時、一緒に部下も殺してしまった。」
「…え。」
彼女の言葉に一護は絶句した。追放、と聞けば何かしらの罪を犯したと予想は出来たがその範疇を越えている。ゆうりは彼の反応を見て眉を下げ視線を床へ落とす。あの日の出来事を思い返せば、自然とグラスを持つ手に力が篭った。
「…虚にね、幻覚を見せられたの。私の部下が、私には虚に見えた。だから殺してしまった。気付いたのは戦いが終わった後。私も怪我を負ったし、その場に居たら仲間を殺した罪で裁かれてしまう可能性があったからこっちに逃げてきたんだよ。」
「なんで…本当の事を言わなかったんだ…?幻覚を見せられたって言えば良かったんじゃないのか…?」
「そんな簡単な話じゃないわ。幻覚を見せられたって、誰がそれを証明するの?私以外皆死んでしまったのに。」
「あ……。」
「逃げて解決しない事は分かってるの。でも生きなければ何も出来ないから私は逃げた。今は現世で、霊圧が外に漏れない様にしながらこっそり修行してるんだよ。……私のこと、怖くなった?」
