第9章 現世編(後編)
「あァ!?」
「当たり前だろう、今死神の力を持っているのは貴様なのだから。もちろん私が補助はする。」
「なんでだよ!?ゆうりも死神なんだろ!?俺がやらなくても…」
「だから私は尸魂界から追放されてるから戦えないんだって。」
「そうだ、言っておくが貴様に断る権利は無いぞ。元はといえば…」
「断る!」
彼は両手をバッテンに交差させはっきりとした口調でそう言った。最後まで言い切る前に拒否の意を示す一護にポカンと口を開いたルキアはこめかみに青筋を立てる。
「……何だと?」
「断るって言ったんだ!あんなバケモノと戦うなんて二度とゴメンだ。」
「ちょ…っ、ちょっと待て!貴様……」
「昨日は!…昨日俺があんなのと戦えたのは…襲われてたのが俺の身内だったからだ。見ず知らずの他人のためにあんなバケモノとなんて戦えねえ!俺はそこまでやれるほどできた人間じゃねぇんだよ!!期待を裏切るようで悪いけどな!」
彼の主張はもっともだった。死神ですら、実際に戦う前にそれ相応の知識や、訓練を行う。それも無しに、今まで出会ったことの無い…ましてや漫画や小説の世界の話にすら思えるバケモノと戦えと言うのだ。どういう経緯が有れど素直に分かったなんて頷けるはずが無い。
けれど、だからといってルキアも引くことは出来ない。
「…そうか……ならば致し方ない!」
「!?何を……」
制服のポケットに手を入れると何やら布を取り出した。それは手袋になっており、甲側には炎の中に髑髏が描かれた赤いそれを右手に嵌めると、彼に駆け寄り掌を顎にぶつけ思い切り押し出す。するといとも簡単に一護の魂は肉体から強引に引きずり出され、魂を失った器子は地面へ倒れた。
「!?おわあッ!?何だこりゃ!?タマシイが抜けてやがる!おいっ!しっかりしろ俺の本体!!」
「ゆうり、そやつの肉体は任せた。おい、ついて来い!」
「いいよ、行ってらっしゃい。」
「は!?お、おい!待てよ!!」
ゆうりは地面に倒れた一護の身体へ寄り添った。彼は自分の身体と、走ってその場から行ってしまうルキアを交互に見遣るが、肉体へ戻る方法も分からない為渋々彼女に着いていく。
残ったゆうりは、2人が走り去って行くのを見送ってから彼の身体を背負い学校の屋上を見上げ一拍置いて一気に飛び上がった。