第9章 現世編(後編)
椅子に座ろうとした矢先、隣から聞き覚えのある声がして動きを止める。顔を横に向ければそこには昨日随分世話になったであろう少女、朽木ルキアが座っており一護は無言のまま嫌な汗が頬を伝う。
何故死神がまだ此処に居る?しかも何でウチの制服着て生徒ヅラして居座ってる!?
そんな疑問が頭の中を駆け巡った。
「あ、彼女今日から来た転入生の朽木さん。こんな半端な時期だけど、家庭の事情で急遽引っ越してきたらしくて…」
「て…ッ、てめぇなんで…」
「?どうしたの?」
「黒崎くん、私まだ教科書とか無いの。貴さ……あなたのを一緒に見せてもらってもいいかしら?」
信じられないものを見るような顔で、震えた声を紡ぎ彼女を指差す一護に、しれっとした笑顔を向けたルキアは握手を求め掌を差し出す。しかし、ゆうりは見てしまった。彼女の手のひらに書かれた"さわいだら殺す"という字を。
「ちょ…ちょっと来い!」
「あーれー、何処に連れていかれるのかしらー。」
「うわっ、ちょ…ルキア!?」
「おい、用が有るのはお前だけだ!ゆうりの手離せっての!」
「私一人では不安でしてよ。せめて私の友達も連れて行ってくれまして?」
腕を掴まれ強引に廊下へ連れ出されそうになったルキアは咄嗟にゆうりの手を掴む。たちまち巻き込まれた彼女はルキア共々教室の外に引っ張られた。まさかゆうりに助けを求めるとは思っていなかった一護は廊下の前で1度足を止めたが、棒読みで声を上げつつもその行為に何か意図でも有ると言いたげな瞳でルキアにじっと見詰められ、言葉と視線の意味に思考を巡らせた彼はハッとし、まさかとゆうりへ顔を向ける。視軸の絡んだ彼女は曖昧に笑う。一護は深く溜息を吐き出した。
「…お前も一緒に来てくれ。」
「うん、良いよ。」
結局、3人揃って外のひとけが無い渡り廊下へと繰り出した。チャイムが鳴るにはまだ時間がある。誰も居ないのを確認して漸く一護は手を離した。
「こんな人気のない所に連れ込むなんて、私何かされるのかしら?」
「その気色悪いしゃべり方はやめろ!」
「気色悪い?心外ね、一晩で修得したにしては上出来じゃなくて?」
「うるせ!どういうつもりか説明してもらおうか!ゆうりをわざわざ連れて来た意味もな!」
「説明?」