第9章 現世編(後編)
こういう場があまり得意でない彼女は引き攣った笑顔と違和感のある言葉遣いで頭を下げる。率先してゆうりが拍手を送ると次第にそれは大きくなった。
「朽木の隣は黒崎なんだけどアイツ来てねーしな…あそこの空いてる席2つあるだろ、その左側だ。」
「はい。」
規則正しく並ぶ机の間を歩き指定された席に着いた。そこで漸く肩の力が抜ける。まさか席まで隣になるとは思っていなかったが、都合はいい。
ホームルームが終わるとゆうりが転校してきた時と同じ様に囲まれ、矢継ぎ早に質問される。たどたどしくも答えるルキアをゆうりは自分の席で頬杖をつき、遠目から見て微笑ましそうに笑った。
「大人気だなぁ、ルキア。」
「染谷さんは彼女と知り合いなのか?」
「…小学校が同じだったの。まさか空座町に引っ越してきたとは思わなかったわ。」
思わず零れた独り言は隣の席に座っていた石田にすかさず拾われた。視線を彼へ向けると眼鏡越しに灰色の瞳と目が合う。その瞳は、どこか探りを入れている様にも見えて少しだけ困惑する。
「…雨竜、私に聞きたい事とか有る?」
「そうだね…二人きりになれるなら。」
「意外と積極的ね。」
「ちゃ、茶化さないでくれるかい!?僕はただ…いや、ここで何か言うのはよそう。君も都合が悪いだろ。」
「ふふ、私は別に隠しているつもりは無いから構わないけど。今度お昼休みでもご一緒させて貰おうかな。」
揶揄うゆうりに石田はやや声を荒らげたが眼鏡を人差し指でクイッ、と持ち上げ直ぐに平静を取り戻す。思っていたより感情を顕にする彼を見て静かに笑った。
それからいつもと変わらず授業は始まり、二限までが終わる。相変わらず一護が登校して来る事は無く、ゆうりは口を開けてぼんやりと宙を見上げる井上の元へ有沢と共に向かった。
「こらァ、口あいてるぞ!いい若いモンがまだ昼間からボーッとして!」
「たつきちゃん、ゆうりちゃん。」
「遅いね、一護!」
「え?」
「一護の事考えてたんでしょ?」
「ち…違うよ!」
有沢の一言に井上は手に持っていた本で口元を隠す。白い頬を赤く染める彼女を見てゆうりは長い睫毛を瞬かせると、その意味を察し目を輝かせ両手を合わせた。
「織姫って一護の事…!」
「ちが…た、たつきちゃんが変なこと言うから!」