第9章 現世編(後編)
学校生活も落ち着き、すっかり慣れた所で5月半ばに差し掛かるある日の事だった。ゆうりはいつも通り浦原達と食卓を囲み談笑しながら夕食を食べる。今日のメニューは白米に味噌汁、生姜焼きに、きんぴらごぼうと至って普通の和食だ。
「ウルルとジン太はもう結構戦えるようになったの?」
「もちろんですよぉ。2人は空いてる時間、あたしが直々に手合わせしてますから。」
「店長手加減しねーんだもんよ…嫌でも戦えるようになるぜ。」
「やだなぁ、手加減しまくりですって!そもそも斬魄刀も抜いてませんし。」
「白打のみ?」
「その通りです。」
「私もたまには相手しようか。」
「絶対ヤダね!」
「えー!ウルルまで首横に振らなくても…。」
ジン太は、べぇっ、と舌を出しウルルも無言ながらに首を横に振り拒否の意を示す。全く乗り気でない彼らにゆうりは唇を尖らせ、気の緩んだ一日を謳歌しているさなか、遠くに感じる霊圧が急激に萎んでいくのを感じる。
いち早く反応したのはゆうりだった。咄嗟に食事の手を止めちゃぶ台に手を着いて立ち上がる。
「ルキアの霊圧が…!!」
「これはいけませんねぇ。近くに虚の霊圧も感じますし、戦闘中でしょう。黒崎サンも居ますね。」
「行って来ます。」
ゆうりは迷わず懐から義魂丸ケースを取り出した。丸薬を口に入れようとしたが、その手は浦原によって止められる。何故制止されたのかが分からず彼女は眉間に皺を作り彼を見下ろす。2人の視線が絡み、和やかだった食卓は突如緊迫した空気に包まれウルルとジン太も思わず食事の手を止め彼らの様子を見守った。
「…なんで止めるの?」
「死神になるという事は、ヘタをすると尸魂界…いや、藍染達にアナタの居場所を知らせる事になります。この前は一瞬でしたから悟られる事が無かったかもしれませんが、斬魄刀を抜いたり鬼道なんて使った日には隠しきれません。行くなら、せめて外套を使って下さい。テッサイ、アレと一緒に持って来て。」
「承知しました。」
浦原の一言に握菱は立ち上がり部屋の向こうへ消えた。ゆうりは早くルキアの元へ向かいたい気持ちばかりが逸りソワソワと視線を霊圧の感じる方へ向ける。どんどん小さくか細いものになっていくのが不安で仕方が無い。