第9章 現世編(後編)
「ふふっ…織姫も千鶴も結構強引ね。助けてくれてありがとう。」
「ううん、ゆうりちゃんすっごく困った顔してたから。それにお昼は黒崎くんの所に行っちゃったし、一緒に帰るくらいなら良いかなって!」
「そうよ!男共と食べるくらいなら明日からあたし達と食べましょ。ヒメにゆうり……可愛い女の子が2人も一緒なんて…。」
「2人とも優しいね。今日はちょっと一護と話したかっただけだし、明日からは一緒させて貰ってもいいかな?」
「もちろんだよ!あたしね、餡子が好きで今日はカステラに羊羹挟んで食べたんだぁ。ゆうりちゃんは好きな食べ物とかあるの?」
「え?うーんそうだなぁ…カレイの煮付け…とか…?」
「結構渋いのね…。」
「もう、そんな事ないよ千鶴ちゃん!あたしも好きだよ。」
2人に挟まれながら続くなんともない日常会話は、何処か心地好く感じた。霊術院の時も確かに学生ではあったが、現世とはまるで違う。学校を終えた後フラフラ遊びに行く間も殆ど無く空いた時間は鍛錬に使われていたから。なんとも新鮮に感じる。
「そうだ!今度たつきちゃんが部活休みの日、皆で甘いもの食べに行こうよ!その方がゆっくりお話出来るでしょ?」
「流石あたしのヒメ〜!ナイスアイディア!!」
「えへへ。ゆうりちゃん、どうかな?」
「勿論行くよ!」
「やった〜!」
井上は両腕を高らかに持ちげ歓喜の声を上げる。本匠はそんな彼女を後ろから抱き締めた。
話をしているとあっという間に別れ道へと差し掛かる。それぞれ手を振り別れを告げ、ゆうりは上機嫌で浦原商店へと帰宅した。店前ではウルルとジン太が2人で掃き掃除をしており、ゆうりに気付いたウルルは頭を下げ、ジン太は彼女を指さし笑い転げる。
「おかえりなさい。」
「ギャハハハ!!やっぱ似合わねーな制服!」
「ただいまウルル!…ジン太はお仕置きされたいのかな〜?」
「へへ、誰が捕まるかよ!」
捕まえようとジン太へ手を伸ばしたところ彼は走って逃げ出す。負けじとゆうりも追い掛け、折角集めた枯葉が虚しく散った。再び集め直しとなったそれにウルルが溜息をつくと、声を聞き付けたのか商店から下駄の鳴る音がこちらへ向かって来る。追いかけっこをしていた2人はピタリと動きを止めた。