第9章 現世編(後編)
「あ…そうだった。一心さんと話したらなんだかスッキリしちゃって忘れてたのよね…。」
「何ー!?もう家にお邪魔するような間柄!?なんなら父親に挨拶済…!?」
「ちげーよバカ、遊子が買い物途中転んで、声掛けてくれたのがコイツだったってだけだ!」
「そうそう、別にやましい関係じゃないわ。ね、一護。」
「…そーそー。」
「本当か!?誓ってなんもしてねーだろうな!!」
「してねーよ!」
「ふふ、啓吾って面白いね。」
「女に飢えてるんだよ。というか、染谷さんって本当に高校生?ぼくにはお姉さん位に見えるんだけど。」
「…失礼ね、皆と同じだよ!」
水色の鋭い一言にゆうりはピクリと肩を揺らしたが直ぐに誤魔化そうと笑う。高校一年生は流石にちょっと無理があっただろうか…そう思うも今更どうにも出来ない。このまま貫き通すのが賢明だ。
「俺より親父の方が先に知り合いだったんだろ?なんの話してたんだよ。」
「小さい頃迷子になってた所送ってもらっただけだって。あの人面白いし顔見ただけで直ぐに思い出せたの。話は…久しぶりだねー、とか?」
「あー…確かに一護の父ちゃんって面白いよな。賑やかで。」
「いい歳なんだからもっと落ち着いて欲しい位だけどな、俺たち家族は。」
なんてことの無い会話が弾む。なんだかとても懐かしい気持ちになる。何十年も前、こうして檜佐木達と過ごした日々もあった。そのお陰もあってか高校の授業は余り苦では無く、寧ろ教科によっては以前既に履修済の物もあったが為些か退屈さを覚えるくらいだ。
「あ、そうだ。一護、連絡先教えて。」
「あぁ、良いけど。」
「待て待て待てぃ!一護だけ!?俺たちは!?」
「教えてくれるの?」
「寧ろ教えて下さい!!」
「じゃあぼくも。」
「ふふ、それならチャドも教えて貰ってもいいかな。」
「別に構わない。」
ゆうりがポケットから携帯を取り出し開くと、一護の目に待受画面が一瞬映る。彼女の隣には、金髪の男が立っていた。直ぐに操作し始めてしまったせいか、浅野や小島は見えなかったようで特に何も言わない。一護だけがそれに気付き引き攣った顔で携帯画面を指さす。
「おい、今の待ち受けって……。」
「待ち受け?…あぁ、近所のお兄ちゃん。勝手に設定されてそのままなの。」