第9章 現世編(後編)
「お前らなぁ…んな急に迫ったらビビるだろ。」
「一護!」
ゆうりが彼の名前を呼ぶと視線は一気に一護へ集まった。ターゲットがきり変わった瞬間を察した彼は息を飲む。そしてその嫌な予感は的中する。近くに居た茶髪の男が、一護の肩を思い切り掴んだ。
「一護お前いつからこんな美女とお知り合いになってんだ羨ましい!!」
「本音出てるぞ啓吾。」
浅野に身体を思い切り揺すられても一護は動じず知らん顔でされるがままだった。男達は一護に群がり彼女との関係を根掘り葉掘りと聞き始める中、女子たちは相変わらずゆうりの周りに残る。
「あたしは有沢たつき。こっちが井上織姫。これからよろしくな!」
「ちょっとたつき!抜け駆けは許さないわよ!!あたしは本匠千鶴。千鶴で良いわ!それにしても、ヒメに負けず劣らずいい身体してるわね……。」
「千鶴ちゃん。ヨダレ垂れてる…。」
「たつき、織姫、千鶴ね!私のことも気軽にゆうりって呼んで。」
クラスの女子何人かと挨拶を終えた所でチャイムが鳴り響く。程なくして教師が入って来ると生徒達は文句を言いながらも席へ戻った。やっと静かになり、思わず大きく溜息が零れる。
「高校生って元気だなぁ…。」
「君も高校生だろう。」
小さく呟いた言葉は隣に座る石田に拾われた。ゆうりは慌てて片手で口を塞ぐ。彼は深く追及する事はせず少し離れた机をくっつける。
「隣の席で騒がしくしてごめんね。」
「君が謝る事じゃないだろう。気にしてないよ。」
言い方はぶっきらぼうに聞こえるが、返答自体は優しく聞こえた。ゆうりは密かに頬を緩め間に置かれた教科書へ視線を落とす。その時だった。彼の左手の手首から、ブレスレットが覗く。大切にされているであろう、ピカピカのシルバーにはクロスの飾りがついている。良く良く霊圧を探れば、石田は人より少し高くも感じた。石田雨竜…この男はもしかして。
「…雨竜って霊感高い?」
「急に何を変な事を聞くんだ。」
「いや、十字架のアクセサリーなんて付けてるからどうなのかな…って。」
「…別に、十字架のアクセサリーなんて何処にでも有るだろう。」