第9章 現世編(後編)
「今日は転校生を紹介するぞー。ほら静かにしろ!」
教師の一喝で教室は静まり返る。本来ならば入学式の日に生徒となる予定だったが少々ずれ込み結果的に4月の半ば頃、漸く空座第一高等学校への入学を果たした。組は勿論3組である。転校という形で学校に入学するのは初めてだった為教室に入るのに少し緊張した。
教師に呼ばれ、扉へ手を掛け横にスライドさせ静かな部屋へ1歩踏み込む。心臓がドキドキと普段より大きく脈打っている様に感じる中、教室に入ると彼女の姿を見た生徒たちは一同に口を開けて固まる。教壇の隣に立つと緊張した面持ちで頭を下げた。
「えーっと…今日からこのクラスでお世話になります、染谷ゆうりです。よろしくお願いします。」
ゆうりが話を終えると再び教室はザワついた。可愛い、美人、本当に15歳?等様々な声が飛び交う。彼女は教室を見渡した。生徒たちの中でも一際目立つオレンジ色の髪をした男と目が合う。彼は大層驚いたらしく何度も瞬きを繰り返した。
「席は石田の隣りな。石田、手挙げろー。」
「あ…はい。」
呼ばれて手を挙げたのは眼鏡を掛けた細身の男だ。その隣は確かに席が空いている。ゆうりは彼の元へ歩み寄り、空いた席の椅子を引いた。
「よろしくね、石田…何くん?」
「…石田雨竜だ。好きに呼んでくれ。」
「じゃあ雨竜って呼ぶね。」
「染谷は急な転校でまだ教科書の用意が出来てないから石田、見せてやれよ。んじゃホームルーム終わるけど一限は現国だからな!ちゃんと準備しとけー。」
そう言うと教師は何事も無かったかのように出て行った。教室の扉が閉まると堰を切ったように生徒たちが我先にとゆうりの元へと駆け寄る。
「染谷さんってハーフ!?髪の色綺麗!」
「あー…」
「何処から転校して来たんだ!?彼氏いる!?」
「えっと…」
「ほんとに高校1年…!?」
「う、うん……。」
矢継ぎ早と繰り出される質問に答える間もなく少しずつ縮こまっていく。興味を持たれるのは勿論嬉しいものだが、こうも纏めて来られると萎縮してしまう。
逃げ出そうにも周りを満遍なく囲まれどうしたものかと曖昧な笑みを取り繕えば、突然ゆうりを庇うようにバッと手が目の前に現れた。その腕を視線で追うと、オレンジ頭の男が唇をへの字に曲げて立っている。