第9章 現世編(後編)
「いやそれは大丈夫とは言わぬぞ。」
「もー。ルキアまでそんな白哉みたいな事言って。いつでもいいから、浦原商店に義骸取りにおいで。待ってるからね!」
ゆうりはルキアの言葉に唇を曲げると、今度はポケットから浦原の名刺を取り出し強引に彼女に握らせた。出会った頃と変わらずやや強引な行動に目を丸めたが、何も変わらない様子に軈てルキアは小さく笑った。
「全く…ゆうりは何も変わらないな。相変わらず私の話を聞かぬ。」
「ルキアは強引に連れ回す位じゃないとダメだって今はよーく分かってるからね。あ、それとこれはお願いなんだけど…尸魂界に、私が生きてる事は言わないで。誰にも。」
「……日番谷隊長にも、か?」
「勿論。必ず尸魂界には戻るつもりではいるの。でも今じゃないし…捕まる気も無いから。」
ゆうりの顔を見詰めた。ただただ捕まり、裁かれたくない一心でそう言っているだけの様には見えない。だが何故そこまで尸魂界を拒むのかも分からない。ルキアは数秒見詰め合うと、肩の力を緩め笑った。
「何か理由が有るのだな…それなら私はゆうりの意思を尊重するまでだ。勝手に誰かに伝えたりはせぬ。」
「ありがとう。……ねぇ、誰が私が死んだって聞いて泣いてたの?」
「蟹沢殿に青鹿殿それから…檜佐木殿も涙を流して居られたな。日番谷隊長や松本副隊長はずっと抗議しておられたそうだ。理由無くゆうりが死神を殺めるわけがない、そして死ぬはずも無いと。」
「…そっか。同期と上司に恵まれたなぁ。」
「その通りだ。だから必ず、その顔を再び彼らの前に見せると約束してくれ。」
彼女の真っ直ぐな声と言葉にゆうりはきょとんと目を丸める。まさかこんな事を言われるとは思っていなかった。大切な上司を失った彼女だからこそ、涙を流した彼らの気持ちが何となく分かるのだろうか。
「ふふ、そうね。約束するわ。」
ルキアの表情が和らぐ。刹那、彼女の持つ伝令神機が鳴り響き2人はその場で別れる。
旧友との再会は曇り続けていた心を少しだけ晴らしてくれた気がした。この町に居る限り、必ずまた会うだろう。その時はどんな話をしようか。そんな事を考えながらゆうりは浦原商店へと踵を返すのだった。
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