第9章 現世編(後編)
『僕は紛れもなくゆうりの斬魄刀だよ。普通では無いのは確かだが。研究者である君が僕を否定するのかい?涅マユリはめちゃくちゃな程斬魄刀までをも改造しているというのに。』
「それはまた随分な事を…。」
『僕はゆうりの味方でありそれ以上でも以下でも無い。彼女を護りそして、彼女が二度と道を踏み間違えない様に導く。それが僕に与えられた使命なんだ。邪魔はしないでくれ。』
にこにこと優しい笑顔では無く、真顔で言葉を紡ぐ胡蝶蘭に背筋がゾクリと粟立つ。影を落とすその表情に何か並々ならぬ決意を感じた。
「矢張り斬魄刀の口にする言葉では有りませんねぇ。まるで未来でも知っているかの様な口ぶりだ。」
『ふふ、そうだね。僕は全て知っている。ゆうりがこれからどんな目に遭い、どれだけの涙を流し、壊れて行くのかを。』
「…喰えない人だ。全てを語るつもりは無さそうですね。」
『あぁ、寧ろ少し話し過ぎてしまったと後悔しているよ。そろそろ僕はゆうりの元へ戻ろう。もしもまた顔を合わせる事があったら、もっと様々な事を教えてあげる。』
ふわりと純白の花弁が渦を巻きながら彼を包む。そして勢いが徐々に衰えていくなり、中心に居たはずの男の姿は消えてなくなった。浦原は飛んできた1枚の花弁を手に取り見詰める。
「…少し、調べる必要が有りそうだ。」
指を畳み大事にその花を包み込むと、少しの間を置いてから地上へ戻るのだった。
一方、商店を後にしたゆうりはルキアの霊圧を探る。元々霊圧探査は得意だった事もあり難なく彼女を見つける事が出来た。丁度虚との戦闘を終えたところなのか、斬魄刀を鞘に仕舞いほっと息をついている。そんな彼女の後ろへ音を立てず忍び寄ると、肩をポンと叩いた。この現世で誰かに声をかけられること等無いと思っていたルキアは反射的に踵を返し、距離を取ると同時に斬魄刀に手をかける。
「なっ、何者……!」
「…久しぶり、ルキア。」
肩を叩いた相手の顔を見た途端ハッと目を見開く。控えめに片手を上げてひらりと振るゆうりに言葉が出なかった。見た目は彼女で間違いないのに霊圧をまるで感じない。
「ゆうり…?本当にゆうりなのか…?」
「本物の染谷ゆうりだよ。」