第9章 現世編(後編)
浦原商店の地下。荒野を模したそこでゆうりは己の斬魄刀である胡蝶蘭を構え瞼を降ろしていた。辺りには彼女を守るように無数の花弁が舞い、真っ黒の死覇装は汚れひとつない純白のものへと変わっている。やがて弛緩に瞼を持ち上げ、斬魄刀を振り上げた。
「…見つけた。」
風を切る音を立て刀を振り下ろす。無数に舞う花弁のたった1枚を刀身に捉え斬り裂いた。切られた花弁はそのまま小さな炎になって灰すら残さずに消滅する。残った花弁は意志を持っているかのようにゆうりの身体へ溶け込みながら消えてく。
「鏡花水月の始解を見た時の記憶は取り除いた。これで私は藍染の斬魄刀の能力を見ていない私へ再構築された、って事になるの?」
『あぁ、ゆうりが切った記憶は紛れもなくその時の記憶だ。』
「そっか、なんだかあんまり実感が無いなぁ。」
卍解状態を解除すると斬魄刀は薄桃色から白へ、死覇装は白から黒へと戻った。胡蝶蘭は直ぐに小さな煙を立て人型へと変わる。
「ねぇ蘭。今尸魂界はどうなってるかな。」
『尸魂界自体は至って普通さ。何か暴動が起こるわけでも無く偽りの安寧に身を置いている。』
「…何で分かるの?」
「分かるのではないよ。知っているんだ。」
眦を緩め優しく笑う胡蝶蘭にどこか違和感を感じた。己に笑い掛けている筈なのに、別の誰かに向けている様な…。
モヤモヤと不信感が募る中、突如上から人が落ちて来る。黒い羽織を翻し降りてきたのは浦原だ。彼は梯子も使わず見事に着地するなり、胡蝶蘭へ視線を寄越す。
「なるほど、彼がゆうりの斬魄刀スか。いやぁ、これはまた随分…」
『ゆうりに似ている、だろう。』
「その通りです。……まるで双子のようだ。」
『そう見えるのならそうなのかもしれないね。』
「……ちょっと、何でそんなに険悪なのよ。喜助はどうして地下に?」
浦原の探りを入れる質問と視線に胡蝶蘭は誤魔化し笑う。火花が散っている様子にゆうりは苦笑し2人の間に割って入り諌めた。
「そうそう、空座町の担当死神が変わりました。」
「わざわざ教えに来たって事は私の知ってる人なのかしら?」
「相変わらず察しが良い。配属されたのは、朽木ルキアっス。」