第26章 翡翠の誘惑
「はいっ!」
ペトラは慌ててカップを勢いよくテーブルに置いた。
「昨夜はマヤと一緒に寝たし、ここでもちょっと寝たし、寝すぎなくらいです」
「そうか。だが明日の訓練は休め」
「え? 大丈夫ですよ?」
なぜ休めと言われたのか全く理解できないといった表情でペトラは少し眉を寄せた。
「エルヴィンと話し合って決めたことだ」
「兵長! 俺も? 俺も休んでも…?」
はぁっとリヴァイは小さくため息をついてから。
「オルオ、お前は午前だけ休みだ…」
「……了解」
がっかりしているオルオの脇腹をペトラがつつく。
「頑張るって言ったそばから何をさぼろうとしてんの!」
「……そうだけどよ」
丸聞こえではあるが、声を落としているペトラとオルオ。
「午前中は全員訓練は休め。それぞれ報告書を書いて昼までにエルヴィンに提出。オルオとマヤは午後から通常どおりの訓練、ペトラは休み。これは決定事項だ」
有無を言わせないリヴァイの声の響きに、ペトラ、オルオ、マヤは声を合わせて返答した。
「「「了解です!」」」
リヴァイは三人の顔を見渡してから、
「俺は部屋に戻る。お前らは、ゆっくりしろ」
すっと立ち上がって自分のカップ&ソーサーを持つと、返却口に歩き出す。
「「「お疲れ様です!」」」
三人はリヴァイがカフェを出ていくところを見送ってから、顔を突き合わせた。
「報告書って何を書くの?」
「そりゃ…、パパ野郎の一件だろ?」
「え~、事情聴取はもうしたじゃん。めんどくさい~!」
「確かに邪魔くせぇな!」
文句をぶーぶー言っているペトラとオルオに、マヤはこう提案した。
「あまり難しく考えずに時系列で起こった出来事を書いていけばいいんじゃないかな?」
「無理! マヤは執務とか得意だからいいけどさ~。訓練を休めなんて言うから寝ていいのかと思ったら報告書なんて最悪! それなら体を動かしてる方がマシだよ」
ペトラはしかめ面をしながら、紅茶をぐいっと飲み干した。