第26章 翡翠の誘惑
……そっか…。ペトラだって私と一緒なんだ。
強くて明るくて、自信に満ちあふれていて。
あのリヴァイ班に選ばれて、どこか特別だと思っていた。
……私が悩んでいるときにいつも励ましてくれるペトラも、不安に押しつぶされそうだったりするんだ。一緒なんだ。
マヤがそう思っていると、ペトラの弾んだ声が聞こえてきた。
「でも兵長に認めてもらえて、すごく嬉しい。そんな風に言ってもらえるなんて思ってもなかったもん」
「良かったね」
「俺もさ…」
オルオも顔を寄せてくる。
「兵長に認めてもらえるなんて百年先だと思ってたからよ」
「馬鹿! 百年経ったら死んでるじゃない」
「そっちこそ馬鹿! たとえだろ!」
「馬鹿とは何よ! 馬鹿!」
「ちょ、ちょっと二人とも…!」
ペトラとオルオの馬鹿馬鹿と言い合う声がカフェに響いて、居合わせているマヤはおろおろする。
「……静かにしねぇか」
いつの間にかに戻ってきていたリヴァイが、紅茶を置く。
カフェには他に、離れたテーブルに男女のカップルが一組いるだけだったが、彼らは言い争っているペトラとオルオを眉をひそめて見ている。
その視線に気づき、二人はしゅんとする。
「……すみません…」
ペトラはうなだれ、オルオは子犬のような目をしてリヴァイを見上げた。
「兵長… 俺ら、頑張りますから!」
俺らの “ら” を聞いた途端にペトラも顔を上げて、リヴァイをまっすぐに見つめてこくこくとうなずいている。
その様子がつい今しがた、声を張り上げて言い争いをしていたとは思えないほど息がぴったり合っていて、マヤは微笑ましくなった。
リヴァイもマヤと同じ気持ちになったのか、一見わかりにくいが、その切れ長の三白眼がやわらかくなる。
「あぁ、期待している」
「「ありがとうございます!」」
手を取り合って喜ぶペトラとオルオ。
「紅茶、ごちそうになります!」
「いただきます!」
二人仲良くティーカップに口をつける。
しばらく黙って見ていたリヴァイが、ペトラに声をかけた。
「よく眠れたか?」