第26章 翡翠の誘惑
「へ、兵長…!」
震えるオルオの声が後ろから聞こえてくる。
「今のマジっすか!? ……俺、」
振り向けば、半泣きのオルオが立っていた。
「俺、一生ついていくっす!」
「オルオ! なに大きな声出してんのよ!」
遅れてカフェに入ってきたペトラが近づいてくる。
「ペトラ~!」
「やだ、泣いてんの? 鼻水たらしてんじゃないわよ」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだ。兵長が~!」
「兵長が何よ」
「今のリヴァイ班が最高だって!」
「え? ほんとに?」
「あぁ、今この耳で聞いたばっかだしよ」
「兵長…! ありがとうございます!」
ペトラも涙目になってきた。
そんな二人の様子を見ていたリヴァイは、
「まぁ… 座れ」
と静かに命じたあと、立ち上がって黙って紅茶を買いに行った。
「うぅぅぅ、俺、頑張ってて良かった…!」
涙声でオルオは隣の空いていた席の椅子をガタガタと音を立てながら移動させる。
「私も…!」
ペトラも同じように空いている椅子を運んできた。
これで少し狭いが、一つのテーブルに席が四つの状態に。
「私… リヴァイ班に任命されたけど、足手まといじゃないんじゃないかとか不安だったんだ…」
ペトラがマヤにささやく。
「……そうなんだ」
マヤは少なからず驚く。
いつも明るく元気なペトラ。討伐の腕も間違いなくて、二年目ながらリヴァイ班に抜擢されても、ある意味マヤは当然のように受け止めていた。
そしてペトラも憧れのリヴァイ班に選ばれて大喜びしていたし、リヴァイ班として立派に活躍している姿はまぶしくて。
とても不安を感じているようには見えなかったし、そういう心情を聞いたことはなかった。
「ペトラがそんな風に思ってるなんて知らなかった…」
「うん。誰にも言ってなかったもん。そんな弱気、口に出して形にしたら負けちゃう気がして」